私の愛機SWAT-310V-specを350V-spec Premiumにアップデートしました。オートガイダーも使っているので実用上は310V-specでまったく問題ないものの、Premium!と聞くと反応してしまうのが世の常。海外勢に押されつつある天文界において、国内勢の中でも気を吐くユニテック社が力を入れて出した製品ならなおさらです。
先日の深城遠征で、月が昇ってから一人現場に残って追尾のテストをしました。
目的はPoleMasterの精度向上
実は今回の改造の主目的はPremiumもさることながら、もうひとつ重要な点として310から350に変更することにあります。追尾精度は同等の310と350ですが、大きく違う点が310は恒星時目盛環が搭載されていること。目盛環で基準星を一度あわせると時間が経っても一晩中、正しい赤経を指してくれます。その分、構造の違いから搭載重量が減ってしまうことに加えて、クランプを緩めた時の粗動動作の精度が落ちます。本来、クランプを緩めた時の精度は撮影にはまったく関係ないのですが、ひとつだけ影響があるのがPoleMasterによる極軸あわせ。最高速でも16倍速のSWATは、PoleMasterを使うときはクランプを緩めて手動で回転させます。そのときの精度が350の方が高いのです。誤解があるといけないの繰り返しますが、追尾精度は310と350は変わりません。
350化することでPoleMasterによる極軸あわせをより精度良くすることが、今回の目的の一つです。恒星時目盛環がなくなり追尾しない目盛環になりますが、私はモノクロCMOSにしてから撮影時間が長くなり導入は一晩に一回になったことや、二度以上導入する時も、毎回、天体近くの基準星から導入することが多いので問題にはなりません。
ためしてみると体感でも明らかにクランプを緩めた時の動作がスムーズでした。これは期待できそうです。
追尾チャレンジ!
月が昇ってきて北天分子雲の撮影も終わったところで、再度、極軸を合わせて南の赤道付近に鏡筒を向けました。私のBORG 72FL + 7872レデューサーは焦点距離288mm、ASI294MM Pro (Bin1x1)はピッチサイズが2.315μmなので、センサーの1ピクセルは天球では1.66秒角相当します(こちらのサイトで計算できます)。
350V-spec Plemiumの追尾精度は±2.8秒ですので、210歯のSWATのウォームギアが一周する7分弱の間に2.8×2=5.6秒くらいずれることになります。5.6秒を1.66で割ると3.4ピクセル分。これに大気差や極軸の誤差、たわみ、その他の原因が重なって最終結果になるわけです。
撮影はノータッチガイドです。つまりオートガイドなし。ちなみに「ノータッチガイド」という不思議な言葉。調べると手動でガイドしていた頃に、モーターでガイドできる赤道儀が登場してノータッチガイドというのだそうです。なんだか時代の息吹を感じるノータッチガイドというワード。とても気に入っています。
以前は、ガイド付き180秒(3分)で少し膨らましていた私。今回はノータッチで180秒スタートしてみました。
等倍の切り出しです。おお、これなら大丈夫。実践では3分は使いやすい時間です。それ以上の時間は風が吹いたり、歩いた振動拾ったりする可能性があるので3分は実用的。もう安心です。何度か撮影しましたが、毎回とも点像をキープできました。
240秒(4分)ではどうでしょう。
ちょっと赤緯方向に膨らんでいます。でもこれ、等倍でみるからいけないんですよう。ズームアウトすれば、ほら。
つづいて300秒(5分)です。
頑張っていますが、途中に横に跳ねた感じがあります。
とここで気づきました。伸びは赤経方向ばかりです。ということは一軸とはいえオートガイダーをつければ良くなるのでは。早速やってみました。500秒(8分20秒)です。
おー、さすが。点像を保っています。ガイドグラフも安定しています。
赤経のグラフ(青線)を見るとほぼ2秒以内で保っています。一軸ガイドのため、いつもは開始直後に彼方に消え去ってしまう赤緯の赤い線も残っています。PoleMasterで精度高く極軸を設定できたのが良かったのでしょう・・・と、ここで日が昇って空が明るくなり時間切れ。ああ〜こんなことなら600秒(10分)をやっておけばよかった。きっと点像だったと思います。8分20秒って、中途半端な・・・。
センサーのピッチサイズと星像
実はこのテストをした当初は、ブログの記事にせずにお蔵入りにしようと思っていました。SWAT 350V-spec Premiumの撮影例をみると、600mmクラスで5分露光した例も出ていたためです。でもユニテック社にレポートを送ると、センサーのピッチサイズを考慮すると充分な結果、とコメントいただきました。
「EOS 6Dなら300秒露出でも点像だっと思います」と記載があります。どういうことか考えてみました。私のASI294MM Proのセンサーのピッチサイズは2.315μmです。一方で、Canon EOS 6Dのセンサーピッチサイズは5.76μmで約2.5倍あります。上記の写真の大きめの星は直径15ピクセルくらい。それがEOS 6Dだと直径6ピクセルになるわけです。
これはCMOSセンサー上の撮像ですが、ディスプレイに表示されるとピクセルサイズが同じになります。天体写真マニアの悪しき習慣であるピクセル等倍にして見ると、EOS 6Dの方が小さくなります。
ここで、ASI294MM Proの場合に5ピクセルほど星像が伸びてしまったとします。
この場合、ピッチサイズが2.5倍のEOS 6Dは2ピクセル伸びることになります。
これもセンサー上の撮像です。またやらなければ幸せになれるピクセル等倍で、星像をチェックしちゃうとこうなります。
同じく伸びているには違いがないのですが、画像が粗くなる分だけ目立たなくなる効果と、小さくなる効果によりピッチサイズの大きいEOS 6Dの方が有利、ということかと理解しました。実はこの議論、最初はセンサー上の撮像だけで考えていたのですが、TwitterでUchanさんがディスプレイに表示したときのことを考えて、ピクセルサイズを同じくして比較した方がよいとアドバイスをくださいました。
いずれにしてもノータッチで3分露出は確実なSWAT 350V-spec Premium。いまの撮影スタイルでは最強でお釣りがきます。Premiumには、他にもアンタレスを撮影するときに有利な低空モードも搭載されています。機会をみて試してみようと思います。
(追記1) 光学性能を加味すると・・・
今回の議論は光学性能は考慮していませんでした。しかし最小の解像度であるエアリーディスクを考慮にいれると、センサーに求めるピッチサイズも異なってきます。M&Mさんの星像シミュレーションの記事で明快に解説されています。ぜひご一読を!
(追記2) シミュレーションをやり直してみる
記事を書き終えてから、EOS 6DはEOS 6D MarkIIのデータを使っていることに気づきました。多くの方が使っているEOS 6Dですと、センサーピッチサイズは6.54μm。これは焦点距離288mmの望遠鏡を使うと天球上では4.68秒/ピクセルです。
また上記の記述では5ピクセルのずれを採用しましたが、実際の星像をみてみると300秒では3ピクセルのずれでした。3ピクセルに私の光学系の1.66秒/ピクセルを掛け合わせると、天球では4.98秒角となります。SWAT 350V-spec Premiumの±2.8秒に収まっています(ほっ)。このデータを使ってシミュレーションをやり直してみました。
EOS 6Dに換算してみましょう。4.98÷4.68=1.06ピクセル。つまり300秒露出すると1ピクセルの伸びになります。撮影した星のうち、中くらいの明るさは10×13ピクセルくらいでした。EOSでは4×5ピクセルに相当します。
実際にはシンチレーション、大気差、収差などさまざまな要因があるので、1ピクセルの伸びならばほぼ点像になることが予想されます。
これは旅先で活きてきますね。家族旅行でオートガイドやら赤道儀やらパソコンやらを持ち込むと絶対に叱られます。カメラは叱られずむしろ喜ばれる。これにSWATをひょいとかばんに忍び込ませることで、300mm前後のレンズに完璧な星像の写真が撮れるわけです!