スターウォーズのファンなら誰でも知っていることですが、ダークはやっかいです。闇が深い。
フラットは良いんですよ。撮影時間が短いから。バイアスにいたっては気分はスポーツフォトグラファー。高速でカシャカシャとむしろ気持ちよい。でもダークは・・・ノイズを生まないようにするためには200枚は必要とか。それって数時間。その時間はライトにあてたいですよね。やっぱりダークサイドよりライトサイド。。。ダーク撮っている時間があれば星を撮りたいし、薄明どきなら早くお家に帰って寝たい。
こんなことを書いてますが、ご多分にもれずフラットにも苦戦しています。上手に撮れない。むしろ画像を悪化させている気がする。こんなダーク補正、フラット補正に苦しむ私が調べたことを書いておきます。
でもその前に・・・
フラットダークってなんだ?
今回の記事はフラット、ダーク処理のことではなく、PixInsightのWBPP実行時のワーニングについて調べたことから始まっています。まずはそこだけ先に書いておきますね。PixInsightを使っていない方は流してください。
PixInsightのWBPPを使い始めて、こんなワーニングを目にするようになりました。BPPではでなかったものです。
Warning: Only master bias will be used to calibrate Flat frames
マスターフラットを作るにもダークは必要です。BPPではライト用のダークフレームをスケーリング処理して流用するのですが、WBPPの規定値では流用せずにフラットダークを使う設定になっています。
ふらっとだーく??・・・意識してなかったので存在に気づかなかった。。。フラットダークとはフラットフレームと同程度の露出時間で撮影したダークを指します。WBPPでは差が0.5秒以内。
ダークは熱による長時間ノイズの除去などに使われますが、ノイズの大きさが時間に比例に近い関係にあるので係数をかけることで共用できるそうです。「1000秒のマスターダークに0.01かけることで10秒のマスターダークとして使うから、安心して流用してくれ」とPixInsightのドキュメントに何度か記載がありました。どこかでは、「ダークの時間をライトにあててね」との記載もみかけました。WBPPでもダークの流用はCalibrate with flat darksのチェックを外しOptimize dark framesにチェックを入れることで可能です。しかしその後わかってきたのですが、このOptimize dark framesはノイズの問題を起こすことが多数報告されています。フラットダーク撮影時間は対してかからないので、optimize dark framesオプションを使わずにフラットダークを撮影することをお勧めします。
では、ここからダーク補正、フラットの解説です。
前処理における2つの大事な補正。ダークとフラット
天体の画像処理をする際、最初にお掃除をして画像を綺麗にします。大きくダーク補正とフラット補正の2つです。
ダーク補正の目的はセンサーで発生したノイズの除去です。除去のため引き算の処理。そのためダーク減算ともいいます。
一方フラット補正は、光の不均一さを均等にする処理です。レンズはその特性上、周辺が暗く真ん中が明るくなります。均等にする処理は割り算(除算)です。どうして不均一を均一にするのが割り算なのか、についてはこの後、なるだけ簡単に説明します。またレンズに付着したゴミなどによる減光も不均一の要素。これも元に戻します。
ではダーク補正からみていきましょう。
ダーク補正とは?
カメラのキャップを締めて真っ暗な画像を撮影しても、2種類のノイズが発生します。バイアスノイズと長時間ノイズです。
バイアスノイズとは、光情報がゼロでも発生してしまうノイズです。光がゼロの場合でもセンサーは少し蓄電されています。いまの技術ではセンサーのピクセルごとにその値が異なってしまうため、縞ノイズのような一定パターンの形で現れます。
もう一つの長時間ノイズは長時間露光した結果の熱によって発生するノイズです。これがやっかいでポツポツとカラフルな点として現れるので、星に見えるのです。
この2つのノイズは、短時間露光して作ったマスターバイアスとマスターダークで取り除くことができます。
次にフラット補正を見てみましょう。
フラット補正は割り戻し
レンズの周辺減光やゴミなどによる減光は、マスターフラットで割ることで、綺麗な画像に戻すことができます。マスターフラットとは均質な明るさの対象物を撮影した何も写っていない画像から作ります。均質な明るさの何も無いところを撮ることで、レンズの明るさムラだけが撮影できます。
どうして割り算をするとムラが取れるのか疑問ですよね。これは「割り戻し」というテクニックです。
「全体にパーセントをかける」と「部分」になります。
全体 × パーセント = 部分
100 × 30% = 30
200 × 30% = 60
逆に「部分をパーセントで割る」と全体に戻ります。
部分 ÷ パーセント = 全体
30 ÷ 30% = 100
60 ÷ 30% = 200
これが割り戻しです。周辺減光の場合、中央が100に対して30などに明るさが減っています。これをマスターフラットを使って30%で割るともとの100に戻るのです。
フラットもダーク補正
マスターフラットを作るためには何も無い写真を撮影しますが、これにもセンサーノイズがのっています。そのためマスターフラットにもダーク補正が必要です。このダーク補正のためのマスターダークをフラットダークと言います。フラットダークはダークと同じ撮影方法ですが、露出時間をフラットと同程度にします。
PixInsightでは上述のように、フラットダークを作らなくても、天体写真用のダークと共有することが可能です。
マスターバイアスの作り方
マスターバイアス、ダーク、フラットを作るには、それぞれ元データであるバイアスフレーム、ダークフレーム、フラットフレームをたくさん撮影してコンポジットします。最初にマスターバイアスから。
これはとっても簡単です。撮影した温度条件、同じISO、レンズに蓋をした状態で、カメラの最少露出時間でひたすら連続シャッターです。本来は露出時間がゼロですがそれはできないので最少露出時間を使います。
カシャカシャカシャ・・・小気味よくてかなり楽しいです。私は天体撮影終了時に撮っています。50枚以上が推奨です。100−200枚撮っても苦になりません。
マスターダークの作り方
マスターダークもやることは簡単です。撮影した温度、ISO、露出時間でレンズに蓋をしてカシャカシャカシャ。これも50枚以上が推奨です。バイアスもダークもそれ自体にノイズがのっては元も子もないので、100−200枚を撮る方が多いようです・・って、よく考えたら大変なんです。露出時間60秒が100枚だと100分、つまり1時間40分。200枚なら3時間20分。そんな時間はいつあるのでしょう?
一度、冷蔵庫でやってみましたが、どうも正しくない気がする。だってそんなに撮影場所はそんなに寒くないし。撮影の帰り支度をしながら撮影するのが現実的なんですが、私の赤道儀は機動性が高いユニテックのSWAT。あっという間に片付けが終わります。結局、私が採用しているのは、帰り支度で撮り始め、帰りの車の中で継続して撮る方法です。夜なので車の中も外気と同じくらい冷えているので、まあ良いか・・と。冬はどうするのだろう。エアコンつけない作戦か??
PixInsightでは、スケーリングといって露出時間の異なる画像にマスターダークを適用させることができます。しかしドキュメントに例示されているのは、1000秒のファイルを0.01かけて10秒など長い露出したものを小さくすることばかり。短い露出時間作ったマスターダークを引き延ばすのは良くないんでしょうね。ふーむ。
・・と思っていたらnabeさんの星撮り日記に冷却機能付きのカメラなら「ダークが別撮りできるのはありがたい」の記事が・・・そういうことなのか。また物欲が・・・
マスターフラットの作り方
マスターダークは面倒なだけでしたが、マスターフラットを作るのは難物です。均質な撮影対象って思ったより少ないのです。人によっては有機EL、曇り空、白い壁・・ほしぞLoveログのSamさんは障子を使っていらっしゃいました・・・うまい!
私は撮影前や撮影後の空が少し明るいときに、レンズにトレーシングペーパーを貼って空を撮影しています。日の方向は明るさがグラデーションになっていそうなので、天頂のなるだけ明るさが一定していそうな場所を撮影しています。
一番明るいところが飽和しておらず、一番暗いところがある程度明るさにするよう露出時間、ISOを設定して撮影します。明るさの比率を見たいだけなので、全体に暗くても明るくてもどんな明るさでも良いようです。私はヒストグラムの左1/3くらいを目安にしています。
またマスターフラットは明るさムラをみるので、色も気にしなくて大丈夫です。白くなくて青空でもOK。PixInsightでインテグレーションするとどっちみちRGBのバランスはめちゃくちゃで色合わせをしますので同じことかと思います。
枚数はバイアス、ダークと同じく、多ければ多いほどよく、私は50枚以上を目安にしていますが、ネットをみるとやっぱり皆さん100−200枚撮っているようです。
ついつい、天体写真を撮ることばかりに気が行きますが、画像処理をしていつも気付くのは、ダークとフラットの出来によって結果が大きく変わること。まだ道は長いです。