前日に横浜で撮影した紫金山・アトラス彗星はそれほど目立つ彗星ではなく、不覚にも現場の撮影中に彗星を見つけることができませんでした。とりあえずシャッターを押しまくり、自宅で小さな彗星が写っていることに気がつきました。「やってきた彗星を撮影する」という天文ファンの宿題を果たしたような気分でした。
そのため、この日もあんまり期待せずに神奈川県三浦市の城ヶ島に向かいました。城ヶ島の海岸に着くとたくさんのフォトグラファーが三脚を立てていました。多くの方は普段は天文にふれていない、おそらくニュースを見てきた方々なのだと思います。
「あんまり期待しないでね。期待はずれでも嫌いにならないでね」
そんな思いで見ていました。天文には「見てみると思ったより大したことない」というマーライオン問題があります。そのためネットニュースであんまり盛り上げられるのも不安になるのです(ちなみに私はマーライオンは小さい方が可愛くて好きでした)。
カメラを設置してとりあえずパシャパシャ撮影をはじめると、ほどなくして彗星の明るい部分が写りはじめました。不思議なもので前日はあんなに探せなかった天体も、一度見つけると簡単に見えるようになります。これも天文あるあるのひとつです。
この日はそこからが違いました。どんどん尾が明るく長くなっていきます。カメラには立派な彗星が写り始めました。そして空をみあげると・・・
「おー、マジかー。すげー」
空に長い彗星の尾が伸びています。思わず声が出ました。あふれ出す感情。ほと走るドヤ感。なぜかすごい彗星をみて、周りの人に「どうだすごいだろう」と自慢をしたくなる自分がいます。
実際には尾は淡く、そらし目(対象から少し目をそらしてみることで、周辺視野を使って淡い天体を見るテクニック。私は「白目で見る」と呼んでいます)も駆使してみていましたが、気持ちの上では空に大きく広がる箒星。知識のなかった昔の人はさぞ畏怖を感じたに違いない、そんなふうにも思いました。
脳内変換はすごいもので、帰りの車の中では全天に広がる大彗星のイメージが頭の中に広がりました。今回の彗星を見た人のほぼ全員が思ったであろう「君の名は」の情景です。
双眼鏡で彗星をみたことはありますが、肉眼で見たのは初めてです。今度は「人生の宿題」をひとつ果たしたような気分で帰途につきました。
<撮影データ>
肉眼で彗星を見ました!〜 紫金山・アトラス彗星
2024年10月14日 18時10分4秒
Fujinon XF35mmF1.4 R (f/1.4)
Fujifilm X-T50 (ISO 3200)
露出1/2秒
Adobe Lightroomにて画像処理
撮影地: 神奈川県三浦市 城ヶ島