これまでノーマルの富士フイルム機を使ってきましたが、今回からASI294MM Proも使い始めました。私には初めてのCMOSカメラ。モノクロを選んだのは、綺麗な画像を撮影したかったから・・・というよりも、撮影や画像処理でいろいろ試してみたかったから。もっと言ってしまうと、天体撮影という行為が「画像処理を楽しむための試料採集」という感覚すらあります。なんだか本末転倒な気もしますが「趣味とは、手段が目的化したことを指す」のだそうで、それで良いかなぁ、って思ってます。
・・・と言うわけで、初めてのモノクロCMOSカメラによる撮影です。こんな感じです。
矢がハートに刺さっていることを初めて知りました。画像は自分ではうまく行っている気がしますが、何か肝心なところを気が付かないまま失敗して台無しにしている気もします。突然やれることが増えたので、その情報量の前に圧倒されてきちんと評価できない自分がおります。改善するには、写真に目が慣れてくるまで時間が必要に思いました。
撮影も画像処理も想像以上に手順が多く、選択肢が増えて混乱の連続でした。それが、まあ楽しい! 「趣味とは、手段が・・」まさにそんな感じです。撮影からLRGB+Hα合成までもプロセスを、順を追って書き留めておきます。
撮影編
まずは撮影の様子から。
撮影プランを立てる
一眼カメラのときは可能な限りひたすら長時間撮影すれば良かったのですが、今回はLRGBとHαの5種類を撮影するので、露出時間・撮影枚数と撮影タイミングを事前に計画する必要があります。初めてですので一晩で一天体と決め、準備を引いても8時間くらいは撮影時間がありそうです。
LRGBは、明るさ情報をL画像から、色情報をRBG画像から得る撮影・画像処理方法です。私のイメージはLの塗り絵に、RGBで色を染めること。そのため下絵であるL画像には十分時間をかける必要があります。今回は少し余裕をみてLを2.5時間、RBGをそれぞれ1時間、残った時間をHαで1時間程度撮影することにしました。
次は撮影タイミングの検討です。夕焼けが起きるくらいなので、赤は分厚い空気層も元気に通過します。Rは高度の低い条件の悪い時間帯に撮影することにしました。青は青空のように散乱するので弱い繊細な光です。Bは天体が天頂付近にあるタイミングにもっていきます。Lも輝度情報で大切なのでやはり条件の良いタイミングに。Gはその合間としました。またHαはナローバンドなので最悪撮影できなくてもよいと考えて、夜明け前の残り時間としました。
B→L→G→R→Hα という順序です。
実際にはいろいろ手間取って、Lが2時間、RGBがそれぞれ45分、Hαが1時間となりました。今回手間取ったのは機材の準備段階で撮影前だったこともあり、全体の撮影プランの見直しができ、RGBの時間を削ることでバランス良く対処できました。しかし翌週の2回目の撮影のときは、途中で大きな失敗をしてしまいました。このときは天体の高度だけを考慮してL画像は最後に撮影するプランにしたので、失敗で時間が減った結果、Lの撮影時間がそのまま減ってしまったのです。曇ってくるなど途中で撮影を短縮しなければならない事態もあるはずで、Lなど大事な画像は最後ではなく確実な時間帯に撮っておくことも考慮すべきと認識しました。
おうちでダーク
CMOSカメラで一番嬉しいのは「おうちでダーク」。ダークは重要と分かっているものの、なんだか時間がもったいなくて気分がモヤモヤします。今回のCMOSカメラは冷却機能付きなので、家でダークの撮影をしました。これはかなり嬉しい!Twitterの皆さんのやりとりを拝見していると、ダークやフラットの出来は、写真全体の品質に大きく影響を与えるようなので、これからも何度か撮り直そうと思います。
さて準備はできました。ここからが現地の撮影状況です。
何にも写らない・・・
いつものように極軸を合わせた後に、基準星をきめて導入します。今回のハート星雲は、カシオペアの東から2番目の星Ruchbahと赤緯がほぼ同じ。まずRuchbarを視野にいれます。そこから1時間10分ほど東に移動すれば導入可能です。ハート星雲は先月も撮ったばかりなので、問題ないでしょう。では、試し撮り・・・ん?
(なんにも写っていない・・・)
おそらく操作を間違えたのだろうと、もう一度カシオペアに戻って仕切り直し。では撮影・・・ええっ?
(やっぱり写ってない・・・)
ガチャガチャやってもダメです。焦ること数十分。そのとき不意に・・・
(あれ?これもしかしたら写っているんじゃ?)
実はハート星雲は写っていたのです。カラー画像のときはほんのり赤い光が写るのですぐに気がつくのですが、モノクロだとイマイチわからない。改めて写真を見てみると、特徴のある星の並びを発見しました。それをスマホのSky Safariで探してみると同じような星の並びを見つけました。
よくよくみると星が集まっている場所なども似ています。写っていたけど気が付かなかたというわけです。今回はLで試し撮りしました。撮影の最後にHαを撮ったとき、しっかりハート星雲が映し出されていたので、L以外にもHαやRで試し撮りすれば良かったのです。
ここでかなりの時間をロスし、さらには撮影開始後に冷却していなかったことに気づいたり、Bin設定を間違えてさらに時間を浪費しました。ここで上述のプランを変更し、Lは2時間、RGBは45分としました。
撮影が軌道に乗り出すと、さしたるトラブルもなく撮り進めることができました。撮影地に関するTwitterのコメントを書かれたぐらすのすちさんともお会いすることができ、会話を楽しむ余裕も持つことができました。フィルターを変更するたびにピント調整はしましたが、あまり変わってない印象もあります。ただピントを何度も確認するタイミングがあるのは、良いことかなって思います。私は目視でのピント合わせですが、バーティノフマスクがちょっと欲しくなりました。
ちなみに撮影ソフトはZWO謹製のASIStudioを使っています。Macではそれしか選択肢がないため。しかし細かい設定ができないので、いずれWindows PCを入手してAPTなどに乗り換えしたいと思っています。
そんなわけで、撮影はなんとか終えました。次はいよいよLRGB合成です。
PixInsightでのLRGB画像処理編
カラー画像の場合はどの処理を選択するかによって手順は変わってくるものの、基本的に一本道。どの処理をいれるか決めて、それをどの順序で処理するかを考えれば良いですし、うまくいかなかった場合は、前の特定地点まで戻ってやり直しができます。
一方でLRGBの場合は別々の画像を処理し、合成するので複数の道ができ、選択肢が飛躍的に増えます。これが楽しくもあり混乱を生むことになりました。最初に処理した結果はみるも無惨。カラーでのPixInsightの処理でそこまで変なことになったことはないので、今回も撮影した画像がダメだったのかな、と悲しい気持ちになってきたのですが、ちょっと処理順序を変えると劇的に変わる。失敗から成功までのバリエーションがとても広い印象です。参考のためネットで他の人のワークフローを見たのですが、やはり千差万別でした。自分の手順をまず確立する必要がありそうです。慣れてきて手順が固まってきたら、まとめて記事にしたいと思います。
今回はいくつか画像処理のハイライトを。
感動のWBPP
これは予想以上にパワフルでした。バイアス、ダーク、フラットダーク、フィルタごとのフラット、ライトを全部いれると、綺麗にフィルタごとにマスターを作ってくれます。今回はやっていませんが、露出時間ごとにもマスターを作ってくれるようです。また最近のバージョンアップでWBPPの処理時間が短くなった気がします。とくにWeightの評価の時間が短縮されたように思います。これはありがたい。
便利なインスタンス機能
PixInsightで最初に「なんじゃこりゃ」となる▲マークの謎のインスタンス機能。これ、実はLRGBではとても便利でした。なんであんな機能があるか初めてわかった気がします。複数のマスターに同じ設定が可能なのです。たとえば位置の設定など。今回は次のように活用しました。
- DynamicCrop・・・ ひとつの画像でトリミングしたら、それをLRGBHαすべて画像で同じように適用できる
- DBE・・・ DBEのサンプル打点を複数のマスターに同じく設定できる。
あれ?他にもあったような気がしますが、これだけだったかな?いずれにしても、同じ設定をできるのがとっても便利でした。
LRGBの合成
LRGBの合成はPixInsightのLRGBCombinationを使いました。RGBにLを合成すると、RGBの輝度情報がLの輝度に置き換えされるとのこと。どんな風に変わるのか、L画像を合成前のR画像と、合成後のR画像を比較してみました。また参考にL画像も載せます。
確かにLを下絵にRで色を塗っているようですが、単純にLの輝度に置き換わっているわけでもないように見えます。今後の検証が必要そうです。この処理の解釈によって、限られた撮影時間をLに向けるのか、RGBに向けるのか、その割合など作戦が変わってきますので、もう少し調査したいと思います。
Hαのブレンド
モノクロカメラのASI254MMを使って一番驚いたのがHα画像の美しさ。ずっと見ていられます。
これをなんとかうまく使いたい。今回はこちらを参考にLとR画像にPixelMathでブレンドしました。Hαのブレンド方法はいろいろ公開されています。簡易に使えるスクリプトのNBRGBCombinationも最初に使ってみましたが、画像がちょっと派手目になったのと、どうやらHαはLに適用されずRチャネルだけの適用の様子。今回はその画像として綺麗さを活用したいのでL画像にもブレンドできるPixelMathの方法を採用しています。
HDTMT、LHEが決まらない・・・
これまで散々お世話になってきたというより、私のPixInsightのフローのハイライトともいえるHDRMultiscaleTransformとLocalHistogramEqualizationが全くうまくいきません。処理をすると画像が悪化してしまいます。Deconvolutionが決まらないのは今に始まったことではないですが、HDRMTとLHEが失敗するのは想定外。これまでのシグナルの小さかったノーマル一眼の画像と違い、情報量の多いデータなので、処理をかけた時に副作用が大きいのでしょう。デフォルトのままにしていたパラメータを見直しが必要になりました。HDRMTとLHEが使えないのは痛手なので、使えるように今後の修練したく思います。
・・・とこんな感じです。まだモノクロカメラの撮影もLRGBの画像処理も、入り口をのぞいたレベル。経験を積んで改善したく思います。良いネタが見つかったら記事にしていきます!
<撮影データ>
2020年11月14日22時29分22秒〜
BORG 72FL + 7872レデューサー (288mm, F4)
ASI294MM Pro
Astrodon LRGB Gen2 E-Series Tru-Balance Filters
Astrodon 5 nm Narrowband Filters – H-α 5nm
露出(すべて-10°C冷却, Bin1x1, gain 120)
L: 60秒x113枚
R: 60秒x42枚
G: 60秒x42枚
B:60秒x41枚
Hα: 60秒x46枚
総露出時間 4時間44分
Unitec SWAT-310-Vspecでノータッチ追尾
PixInsightにて画像処理
撮影地: 大月市七保町