子供の頃、友の会会員として通い詰めていた名古屋市科学館。小学4年生の頃にもらった馬頭星雲野写真に心を奪われたのをよく覚えています。季節が巡っていよいよ撮影の時期が来ました。綿密な計画を立てて初撮影に臨んだのですが・・・。
以前の自分では考えにくいほど綺麗に撮れてはいるのですが、ちと悔いが残るのです。今回、その顛末をお伝えします。
トラブル耐性の低い撮影プラン
次のような基本的な方針をもとに撮影プランをたてました。LRGBと天体高度の関係は前回のハート星雲の記事に記した通り、元気の良いRは天体が低いとき、繊細なBは天体が高いときです。
- LはRGBの3倍くらいの露出時間を確保
- 高い位置の子午線付近の時に散乱してしまうBを、その前後でLを撮影
- 天体が低い位置のときは、強いRを撮影
- 月が出ているうちにHαを撮影
この日の月の入りは22時30分頃。馬頭星雲が子午線を越えるのが午前1時20分頃。薄明が午前5時半過ぎ。上述の方針に従い、月が出ているうちはHαを撮影し、午前1時半頃にBを撮影できるように次のようなプランを組みました。
これによりLが3時間、RGBとHαはそれぞれ1時間確保できます。一見、理にかなっているこのプラン。実は大きな欠陥があったのです。それはトラブルに弱いということ。アメリカンな言い回しではコンティンジェンシープランが用意されていません。失敗が計画時点で仕込まれていたわけです。結果としてL画像の露出時間が予定より大幅に減ってしまいました。
その夜、何が起きたのでしょうか?
(トラブル1) このままでは見えなくなる
B画像を撮影し終わった2時付近までは順調そのものでした。いつも何かしらヘマをする私。その日は極軸合わせもスムーズで、天体導入もオリオン座の三つ星のすぐ近くというわかりやすい位置にあることから迷うことはありませんでした。Hα、R、 G、 Bと快調にすすみ、さらにはコンビニ弁当も当たりでした。
「私もずいぶん天体写真に慣れてきたなあ」
と悦に入っていました。しかし好事魔多し。最後のL画像撮影開始のときにピント合わせをしようと望遠鏡を確認したところで愕然とします。
「オリオン座、建物に隠れそう・・・」
思ったよりも南よりの位置で沈みはじめるオリオン座。望遠鏡の設置位置を間違い、建物の影に隠れそうです。どこかで覚悟を決めて望遠鏡を移動するしかありません。しかしいまは子午線近くのゴールデンタイム。ギリギリまで粘って撮影を続けて、1時間後に移動することにしました。
次の設置箇所を探し始めたその瞬間・・・
(トラブル2) 三脚を蹴りました
か〜〜ん、という乾いた音が無人のダム湖に響きます。
「いま三脚蹴ったよね。わたし三脚蹴ったよね・・」
蹴ってしまったものは仕方がありません。あきらめて1時間後に予定していた望遠鏡移動の儀を先にすることにします。北極星を探して、PoleMasterで極軸合わせからやり直し。2時にL画像の撮影開始のはずが3時開始になってしまいました。何より痛いのは天体の高度が低くなってからのL画像の撮影となったこと。
気落ちしながら、撮影を再開しました。しかし悲劇はこれだけではなかったのです。無人のダムに響く甲高いエンジン音・・・。
(トラブル3) 走り屋の皆さんの集会が始まった
峠を走る仕様なのでしょうか。通常のフロントライトよりも眩しい青いライトのついた車が続々と駐車場にやってきました。自分の体でレンズに光が入らないように防御しましたが、それどころではない明るさ。どうにもなりません。意を決してお願いにいきました。
「あの〜、実は星を撮影してまして、すみませんが、ライトを消してくださいませんか」
「ああ、気がつきませんでした。すぐやりますね!」
話してみるととても気の良い若者たち。後から集まってくる車のことも考慮して、フロントを反対方向に向けて駐車し直してくれました。聞けば星を見にきたとのこと。それではと、おうし座、ふたご座、ぎゃしゃ座などを解説してみましたが、あんまり興味がない様子でした。そうこうしているうちに明るくなってきてしまい、結局、L画像は予定の3時間に対して、1.5時間。それも高度の低い時間帯となってしまいました。
これから
今回は、ほぼ私のミスによるトラブルでしたが、万全を期しても曇ってくることもあります。途中で撮影が中断しても写真として成立するカラーカメラと違い、モノクロカメラは写真を一式揃えないとカラー写真として成立しません。別の日に撮影に来れば良いのでしょうが、曇り空が続きチャンスは翌年になるかもしれません。できれば一晩で撮り切りたいもの。途中で撮影が中断しても何とかなるよう計画をたてるべきと思います。今回の失敗は大事なL画像の撮影を最後に持ってきた点。そこで考えたのが次のプランです。
RGB撮影を2回に分けることで、今回のように明け方近くにトラブルがあっても大切なL画像は十分確保できます。またL画像撮影中になんらかのトラブルで中断してしまっても、後半のRGB撮影時間を減らしてLを増やす対応がとれますし、そこでやめてもLRGB一式はとりあえず揃えることができています。前回のプランではもし2時に曇ってしまったらLが撮影できず写真として成立しないところでした。その意味ではまだラッキーだったかもしれません。新プランではBの撮影が南中より少し早い時間ですが、まあ問題ないでしょう。課題はフィルターの変更回数が増えるので撮影時間が減ってしまうこと。フィルター交換自体は自動のため、ピント合わせの時間が問題になります。とはいえ全体を考えると良くなっているはず。次回はこんな考えでやってみようと思います。
天気の様子で途中で曇りが予測される場合や、夜の後半にかけてだんだん天気が良くなるパターンもあるでしょう。また南中時間も天体によって異なります。撮影条件は千差万別。都度、より良い計画を編み出したいと思っています。
<撮影データ>
2020年11月21日21時40分18秒〜
BORG 72FL + 7872レデューサー (288mm, F4)
ASI294MM Pro
Astrodon LRGB Gen2 E-Series Tru-Balance Filters
露出(すべて-10°C冷却, Bin1x1, gain 120)
L: 60秒x97枚
R: 60秒x57枚
G: 60秒x53枚
B:60秒x60枚
総露出時間 4時間27分
Unitec SWAT-310-Vspecでノータッチ追尾
PixInsightにて画像処理
撮影地: 大月市七保町