PCCのパラメーターと星の色の話 〜 PixInsightの画像処理

昨年(2020年)の秋に発足したPCC事故調査委員会。PixInsightのPCCで発生する緑被りを抑制する画期的な手法でした。しかし、この手法が大失敗を引き起こしたのです。今回は失敗の理由を引き起こしたパラメータ設定から、星の色の話まで解説します。

PCC事故調査委員会の基本戦略は色収差の影響を減らすこと。そのためにLimit magnetudeを大きくして測定する星の数を増やし、Apertureを大きくして星の測定領域を拡げました。前回はアンドロメダ銀河でLimit magnetude=15、Aperture=20がうまくいったので、それ以降、おまじないのようにこの値を使ってきました。しかしその値が毎回通用するわけではなかったのです。

最近、処理をしたM4。本来もう少し黄色っぽいオレンジ色なのですが、赤っぽくなってしまいました。仕方なしにM4だけ彩度を落としました。こちらです。

M4や周りの星が赤っぽい
M4や周りの星が赤っぽい

「こんなもんかな」と見てみぬふりをしていたのですが、天文仲間からも「ちょっと赤いかも・・」とのコメント。さらには拡大してみると青いはずの星が紫になっています。

紫色の星・・・
紫色の星・・・

SCNRを最初は疑っていたのですが、History Explorerで一つずつ追いかけてみるとPCCで引き起こされていることがわかりました。いろいろ試してみると、実はLimit Magnitudeを上げすぎていたのが問題だったのです。このあたりは星が多いので、Limit Magnitudeを20まで上げていました。Autoに戻すと本来の色味に戻りました。

PCCをやりなおしたM4
PCCをやりなおしたM4

多くの作例を参照してみても、このカラーバランスで問題がなさそうです。星の色も青くなりました。

星も青くなりました
星も青くなりました

PCCの結果をそのまま信じるのではなく、色を検証し良い結果になるまでパラメータを変えるのが良さそうです。カラーバランスはいつも悩むのですが、星の色が適正かどうかチェックするのは良い手段ですね・・・というか、それこそがPCCのコンセプトでした。ググってみると、ヘルツスプルング-ラッセル図(H-R図)で星の色は表現されるとのこと。H-R図を色表現したチャートをみると一番青くても青白い感じで、真紫ではありませんでした。カラーバランスをチェックできるポイントがひとつ増えました!!

PCCのパラメータを変更するとどうなるか

アンドロメダ銀河の時は、Limit magnitudeとApertureの値を上げることで、緑被りを回避できました。今回はどうでしょう。左が値を上げた状態、右はオート設定です。

PCCのパラメータ比較
PCCのパラメータ比較

左の画像は赤味を帯びています。この段階ではストレッチ前で彩度も抑えられていますが、後工程で処理を進めるに従ってより赤さが目立ってきました。右のオート設定は少し緑っぽさがあるもののSCNRで対処できそうです。グラフも見てみます。

グラフの形が異なる
グラフの形が異なる

スケールが異なるので見にくいのですが、B-Gはあまり変わらない一方で、R-Gの方は左の方が0切片の値が大きく、また傾きも急です。これが色の違いを引き起こしています。

もう少しパラメータを変えて検証してみましょう。

Limit magnitudeとApertureの違い
Limit magnitudeとApertureの違い

今回の例では、Apertureの値では明確な差は出ず、Limit magnitudeが影響を与えていました。Limit magnitudeは何等星まで測定対象とするかを設定します。星雲のガスが多い領域なので、暗い星は本来の色以外の影響を受けたのかもしれません。今回の結果を考慮すると、まずはAutoを試してみてカラーバランスが悪かったときに、Limit magnitudeやApertureの値を変更するのが良さそうです。

星の色と色指数(Color Index)

色指数(Color Index)については以前に調べて記事にしました。ちょっとわかりにくい色指数。少し補足したいと思います。

まずPixInsightのPCCチュートリアルにあるこちらのグラフをご覧ください。これは典型的な星のスペクトルをいくつかのせています。またJohnson Bは青色フィルター、Johnson Gは緑色フィルターの領域です。 星の色は表面温度によって異なりますが、横軸を波長、縦軸を輝度にとると山の形になります。これを可視光の波長領域で切り取ると上記のPCCのチュートリアルのグラフになります。青い線の光は山のピークが可視領域より左にあるので右下がりの線ですし、赤い線の光は山のピークが可視領域より右の方にあり右上がりの線です。黄色の線(線の色は緑にして欲しかったなあ。線の名前もGで始まっているし・・・)は山のピークが中心に来ていてなだらかです。

星の光の強さと波長の関係

これをよく見てみると、なぜ星が青と赤だけで緑の星がないのかわかってきます・・・そういう私は今回わかりました。

もう一度、PCCのチュートリアルのグラフをご覧ください。可視光のこの領域で左側が青、真ん中が緑、右側が赤い領域です。青い線は左の方の光の量が強いので青くなります。赤い線は右側が強いので赤です。黄色い線ですが、緑の領域に山があるので緑と言いたいところですが山はなだらかで青い領域や赤い領域にも十分な強さがあります。青、緑、赤に均一に光があるので白くなってしまうのです。結果として星の温度が高い星は青く、温度が下がるにつれて白くなり、さらに温度が下がると赤くなっていきます。

色指数はBフィルターの光の強さからGフィルターの光の強さを引いた値です。もう一度、PCCのチュートリアルのグラフをみてみると、青色の領域にある光のB-G(GはVと表現されています)の値はプラス、白(黄色の線)は0近く、赤色の線はマイナスです。このようにB-Gの値で星の色が表現できるのです。なおB-Gだけでも色は表現できますが、PCCではR-Gも採用しています。

今回、PCCのパラメータの調整からスタートして星の色のことまで調べることになりました。星の色、天体の色がなぜそうなっているかを知った上で画像処理ができれば、今回のようなミスはしなくてすみそうです。

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