知っておきたいABEのテクニック 〜 PixInsightの画像処理

ABE(AutomaticBackgroundExtractor)はフラットな背景を得る強力なツールですが、うまく決まらないことも少なからずあります。例えばこちらの馬頭星雲。

馬頭星雲のL画像
馬頭星雲のL画像

左下から右上にかけて背景がグラデーションになっています。光害によるものでしょう。早速ABEで光害被りを除去してみます。パラメーターは既定値のままです。

ドーナツ型の陰影
ドーナツ型の陰影

このように中央の馬頭星雲に穴の空いたような巨大なドーナツが登場してしまいます。

これです
これです

この問題。私はしばらく悩まされていたのですが、実践情報満載のブログ そーなのかーの雑記帳で教えたいただいたテクニックで改善しました。簡単にして効果てきめん。それは、ABEのFunction degreeを1にするという方法です。

ABEのFunction degreeを1にして1次のモデルをつくる

Function degreeは背景モデルを作るときの次数を設定します。大きな数字すると、より複雑な形状を表現できます。PixInsightのドキュメントではLocal background variationとあるので、局所的な形状を設定できるというわけです。これはFunction degreeを4でABEを実行したバックグラウンドモデルです。

Function degreeが4のバックグランドモデル

しかし、きちんとフラットを引けいて周辺減光がないとすると、残りは光害。望遠鏡でズームした空にぐにゃぐにゃした光害があるとは思えません。1は直線的なモデルです。光害は地平低いところから徐々に暗くなっていくはず。つまり1次で十分だというわけです。早速やってみましょう。

Function degreeを1に設定

結果は・・・。

Function Degreeを1に設定
Function degreeを1に設定

ずいぶんよくなりました!バックグラウンドモデルはこちらです。

Function degreeが1のバックグラウンドモデル
Function degreeが1のバックグラウンドモデル

拡大してみると直線によるグラデーションのモデルであることがわかります。これまでのFunction degreeが4ではオーバーフィッティングというのか、分子雲の影響をうけていたのでしょう。これで一件落着!・・・と思ったところで、新たな疑問がわきます。

回転する光害

天体は回っています。つまり光害のむきも一方向ではなく回るはず。試しにL画像の撮影初めの一枚目と最後の画像にABEをかけてみました。バックグランドモデルをみてみましょう。2つの画像には3時間の差があります。Function degreeを1にしたのでグラデーションは直線です。わかりやすいようにグラデーションに沿って線を引きました。

撮り始めと3時間後のバックグランドモデル
撮り始めと3時間後のバックグランドモデル

やはり角度は変わっています。南の空は時計回りなので光害は反時計回りで動くはず。この角度の差は天体の運動によるものとみて良いでしょう。とはいえ誤差の範囲にも思えます。

「あれ?このくだり、どこかで読んだなあ」と思って近江商人さんのnoteにアクセスしてみると、まさに光害の方向のずれについて記載がありました。もともと今回のことは近江商人さんの記事を読んだことから始まったのですが、そのときは私は問題を理解していなかったのですね。

この程度の角度の違いは誤差の範囲にも思えますが、せっかくなのでそーなのかーさんのブログに記載のあったImage ContainerをつかってIntegration前の撮影した画像一枚ずつにABEをかけてみます。ちょうどWBPPの中間ファイルが残っていたので、registeredフォルダの下のCalibration, Resistrationが終わった後のデータをImage Containerで読み込み、それぞれにABEをかけました。Function degreeは1です。ABEが終了したらImage Integrationで合成しました。

一枚ずつABEしてインテグレーション

かなり綺麗ですが、まだ明るさに勾配があるので、もう一度ABEをかけます。Function degreeは1と2の両方を実施しましたが、ここでも1が有効でした。

もう一度ABE実行
もう一度ABE実行

こんな感じです。最初のデフォルトのABEに比べてかなり改善しています。ただし、最初に紹介した、個別にABEをかけるのではなく、WBPPを終えてからの画像にFunction degreeが1でABEをかけた画像とはそれほど変わらないかもしれません。

今回はFunction Degreeを1にするという簡単なテクニックで、大きな改善を得ることができました。他の画像でも検証してみたところ、やはり結果は良好です。

ではなぜPixInsightは最初からそう設定してくれないのか。これは観測地の違いによるものと思います。暗い空としても都市部の光が強い日本の郊外と、広大な土地で真っ暗な中で撮影するのが基本の国との違いもあるでしょう。また天候の悪い日本の写真は6時間も露出するとかなり長時間露出の部類ですが、乾燥地で撮影しているのか海外の写真は10時間では短時間と記載されていることが多く40時間以上の露出も普通です。環境の違いにより設定は大きく異なるため、既定値も変わってくるのだと思います。ネットの情報で上手くいくとあっても、自分で試すのが大切なのでしょうね。でもついつい鵜呑みにしちゃいます・・・。

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