2019年のチリ旅行で現地で知り合った友人2人と私でAstroCHL2JPNという名のチームを結成し、本格的にリモート観測を開始しました。ファーストライトは日本から見ることできないイータカリーナ星雲。南半球の方にとっては我々のオリオン座大星雲のような存在です。たぶん・・。Wikipediaによればオリオン座大星雲の4倍の大きさとのこと。530mmの鏡筒にフォーサーズサイズのカメラで撮影していますが、広角でも撮ってみたい天体です。
イータカリーナ星雲は2月下旬頃から約1ヶ月かけて、複数の天体と並行して少しずつ撮りました。遠征での撮影と異なりリモート撮影は、ちょっとずつ画像を撮り貯めていく楽しさがあります。総露出時間は41時間20分。実際はこの倍くらいの撮影しています。SN比やFWHM、Eccentricityが良いデータだけを選別したことや、星雲の位置がずれてしまったフレームもあり、半分くらいの歩留まりになりました。位置ずれの問題は調整を重ねていくにつれて良くなると思います。
明るいデータに慣れていない私。画像処理はなんどかやり直してます。まだまだ引き出せていない情報もあるのではないかなぁとも思っています。とくに星の処理は今後の課題です。画像への影響を考慮してABE/DBEとノイズリダクションはかけないことにしました。ノイズリダクションをスキップしたのは初めてです。
月が出ているときにはHαを撮影していました。Hαの露光時間は13時間50分です。
観測所はチリ北部のアンデスの山々に囲まれたウルタド渓谷にあります。この辺りは乾燥地帯で年間を通して晴天が続く地域。この1ヶ月では、曇りで撮影できないのは週に1日程度でした。天体撮影には条件の良い場所で、近くにはセロ・トロロ汎米天文台もあります。
我々のチームAstroCHL2JPNは、チリの首都サンティアゴ在住のCarlosと、観測所近くに住んでいるEduardo、横浜に住む私の3人。チャットツールで頻繁にやりとりしながら運営しています。
機材の調整はEduardoが担当してくれています。機材に接続されたWindowsパソコンをリモート操作することで、日本からもカメラ、マウント、オートガイド、フォーカスなど操作でき、撮影したデータはDropboxを通じて即座に手元のパソコンで確認できます。一晩撮影しているといろいろなことが起きます。チリの夜は日本の昼間。撮影中にトラブルが起きた時は、私がなんとか遠隔から調整し、翌朝にレポートするようにしています。運用開始から1ヶ月でかなり慣れてきました。ちなみに観測所近くに住むEduardoは、日中からワインを飲んでいる写真をたくさん送ってきます。昼間はアンデスの景色をみながらワインを飲み、夜は南十字星と濃い天の川をみながらワインを飲む・・・これを理想の生活と言わずしてなんというのでしょう。
AstroCHL2JPNでは機材を数台を運用をしており、私が担当しているのはタカハシのフローライトFSQ-106N。
FSQ-106Nは、20年選手のEM-200に載せています。カメラはおなじみのZWO ASI1600MM Proです。
HαをLにブレンドしたバージョンも作りましたが、ちょいと不気味なことに・・・。
リモートを始めるとき「現地に行かなくて楽しいのか」という心配がありましたが、杞憂におわりました。とても楽しい。「それでは遠征をやめるのか」というとそれも違い、遠征とリモートはそれぞれ質の異なる楽しさがあります。遠征は前もって準備をし、天気のことにヤキモキし、一晩楽しんで帰ってくるというイベント。一方でリモート撮影は毎朝設定し(チリの夕方は日本の朝です)、日中うまくいっているかモニタし、夜に結果を確認、と普段の生活の中に撮影が組みこまれます。
非日常のイベントと、毎日の生活に組み込まれた日常。遠征とリモート撮影はかなり異なるもので、それぞれ楽しみがあります。まだ書きたいことはたくさんあるのですが、盛りだくさんになりそうで、おいおい書いていこうと思います。
<撮影データ>
イータカリーナ星雲 Photo by AstroCHL2JPN
2021年2月21日 〜 3月26日
Takahashi FSQ-106N (530mm, F5)
Takahashi EM-200
ASI1600MM Pro
Baader LRGB, Hα Filters
Autoguide – QHY5L-IIM / Baader Vario-Finder 60mm
露出(すべて-20°C冷却, Bin1x1)
L: 600秒x83枚
R: 600秒x43枚
G: 600秒x66枚
B: 600秒x56枚
LRGB 総露出時間 41時間20分
Hα: 600秒x179枚 (13時間50分)
PixInsightにて画像処理