PixInsightのPhotometricColorCalibration (PCC)はよくお世話になるプロセスの一つで、私は色合わせはPCCにおまかせしています。でも何をやっているか、というと星のColor Indexを使って色を調整して・・・とざっくりしか理解していませんでした。そこでPixInsightの本家チュートリアルを読んでみることに。このチュートリアルなかなか気合いが入っていて、かなりPCCに思い入れがあります。今回はチュートリアルから理解したPCCの処理内容をお伝えます!
まず冒頭から引用してみます。
PCCがユニークであるのは、深宇宙の天体写真における我々の哲学、とりわけ画像処理における哲学を具現化しているものだからです。天体写真は記録性の強い写真です。そのため、対象の天体の特性を保つ基準を設定せずに処理してしまうような恣意的な要素をほとんど含みません。深宇宙の天体写真においては、我々は色とは画像に含まれる情報を再現するための道具と捉えています。後述する基準を使って、撮影された天体の特性は正しく再現されます。我々の意見では、日光の中で培われた人間の視覚の特性を基本とした「自然色」という従来のコンセプトは、この考え方には含まれません。
https://pixinsight.com/tutorials/PCC/から引用・翻訳
気合い入っているでしょう。色を簡単に扱わないぞ、という感じでしょうか。確かに考えてみると、一眼レフカメラでおなじみのホワイトバランスも、太陽の光を基本としています。それが人間の目からみた一番自然な白だからでしょう。しかし星々は太陽系の天体を除くと、太陽に照らされているわけではありません。そうすると何が自然な色なのか、議論が起きてくるわけです。また同じ人でも見え方は違うはずです。以前に聞いた話ですが、インドである日本メーカーがテレビを販売したとき、当初は苦戦したけれど赤色を鮮やかにチューニングしたら売れるようになったそうです。インドの方は赤に対する視覚特性が違うからだそうです。
PCCはどんな思想で色合いを調整しているのでしょうか。早速見ていきましょう。
星の色 ー Color Index (色指数)
星の色の決定に、PCCはジョンソン測光システムという方法で測定されるデータを活用しています。ジョンソンシステムでは、青(Johnson B)と緑(Johnson V)という二つのフィルターを通して星の色を測定します。BはBlueのB、VはVisualのVです。Vは実視領域と訳されることが多いですが、PixInsightのチュートリアルではGreenとなっていました。
このBフィルターを通して得た光の等級から、Vフィルターを通して得た光の等級を引いた値を、Color Index(色指数)と呼びます。PCCはこのColor Indexを使って撮影された画像の星の色と、リファレンスカタログの値を比較評価します。
青(B)の等級から緑(V)の等級を引いたColor Indexは何を示すのでしょう。これは緑に対する青の強さの比率を表します。光の等級は1減ると約2.5倍明るさが増えます(約としたのは正確には6等級から1等級になると100倍という定義なので、100の5乗根の2.512倍です)。そのため、B-Vが1ならば緑が青より2.5倍強いことをしめし、2ならば6.3倍強くなります。逆に-1なら青が緑より2.5倍強いということです。つまりB-Vは青と緑の光の強さの比率を表しているのです。
PixInsightのPCCは、AAVSO Photometric All-Sky Survey (APASS)という星のデータカタログを利用します。APASSでは、色の決定に上記の青(Johnson B)と緑(Johnson V)に加えてもう一つ、Sloan r'(赤)というフィルターを通した値を使用します。このSloan r’というフィルターを通して得た赤の値からJohnson Vの緑を引いた値により、赤と緑の比率を表します。星の色を決定するには以下の2つのColor Indexを利用します。
- R-V: Sloan r’ – Johnson V
- B-V: Johnson B – Johnson V
この2つColor Indexにより青と緑、赤と緑の比率がわかるので、あわせてRBGの比率がわかり色を表現することができるのです。
APASSを使った色の評価
PCCプロセスでは、APASSで提供される2つのColor Indexと、実際に撮影されたデータのR-G(赤と緑の等級の差)とB-G(青と緑の等級の差)を比較します。
PCCを実行すると以下のグラフが表示されます。ちなみにこれは私が撮影したM101のPCC処理結果です。
点の一つひとつは測定に利用した星です。上のグラフはX軸が撮影した星に対応するカタログのR-Gの値。Y軸が撮影した画像から取得したR-Gの値。同様に下のグラフはB-Vのカタログ値と撮影データのB-Gの値です。見て分かるように直線上に乗っています。これは、撮影データとAPASSのColor Indexに相関があることを示しています。この直線を使ってB-G, R-Gそれぞれにカタログ値と撮影データの比を求めることができます。
White Reference (白の基準)
最後にWhite Referenceを決定します。White Referenceとは「何を白とするか」という基準です。PixInsightのもう一つの色合わせツールであるColor Calibrationでは画像からWhite Referenceとなる天体を選択しましたが、PCCでは画像に存在しない天体をWhite Referenceとして指定できます。そのからくりはこの後、説明するとして、今の選択値を見てみると、初期値ではPCCではAverage Spiral Galaxyが選択されています。
これは渦巻き銀河であるハッブル分類でいうところのSb、Sc、Sd銀河の平均をとったものです。
この平均的な銀河のAPASSでのColor Indexを求め、上記のグラフにより撮影データのColor Indexに変換します。これによりWhite Referenceが撮影データではどれくらいのColor Indexとなっているかわかります。基準となる白のColor Indexが分かりますので、それを白になるように色をあわせることで、撮影されたデータ全体の色をカタログ値の色に正確に調整できるわけです。
チュートリアルにはAbsolute White Referenceという記載が何度も出てきます。撮影データの最も白に近い天体を白の基準にするColor Calibrationに対して、撮影データには存在しない仮想的な銀河を白の基準にするのがPCCというわけです。よく考えられていますね。ただしどちらが正解ということはなく、アプローチの違いという立場のようです。
以上、PCCの処理内容の解説でした。PCCの操作については、こちらの記事をご参照ください。