色とノイズの改善にいつもDrizzleを使おう 〜 Pixinsightの画像処理

カラーCMOSカメラを使い始めました。これまでモノクロCMOSのみを使用してきましたが、カラーの性能向上や、国内遠征での利便性アップ、そしてなによりもカラーカメラに関するPixInsightの質問が増えてきたからです。このブログで質問コーナーを運営しているのでカラーカメラの経験がないのはまずい。ということでASI6200MCを購入し撮影を開始しました。

いろいろ発見がありましたが、大きな成果の一つにDrizzleの理解があります。カラーカメラを使うときはDrizzleを実行したようが良い。実は後述のようにモノクロカメラでもDrizzleをした方が良い。私はカラーでもモノクロでも必ずDrizzleしています。

Drizzleはハッブル宇宙望遠鏡の画像処理をする際に、アンダーサンプリングなデータを改善するために開発された手法です。しかしアンダーサンプリングな画像の解像度をソフトウェア的に増やす以外にも、3つの効果があります。

(効果1) 色が正しく再現できるようになる。とくにSPCC利用時はDrizzleが必須。
(効果2) ノイズの状態が良くなる

(効果3) おかしな画像(artifacts)が減る

この効果により、解像度をあげないDrizzleであるScale=1でも有効です。Drizzleを使ってファイルサイズが大きくなることが困る方はScaleを1で実行ください。解像度はそのままにすることができます。

これら情報は、PixInsightチームからもたらされたもので、こちらのスレッドを参考にしています。

Drizzle all the time
I have been reading comments here and on other sites that the considered preference is to use drizzle in WBPP for all im...

それでは効果について順に解説します。

(効果1) 色が正しく再現できるようになる

SPCCのドキュメントを見るとSPCCの利用時には、かならずDrizzleを使って欲しいとあります。

Another important point when working with OSC cameras is to always use drizzle. Besides the fact that only a drizzle integration can provide optimal results by avoiding interpolation, some de-Bayering algorithms may modify color proportions at small scales, where interpolation of missing color data in CFA patterns plays an important role. This is the case with VNG. While large–scale structures remain untouched, point sources (like stars) will be altered. And, what is worse, this color shift depends on the sizes of the stars so that each image can be altered differently. This affects stellar photometry so that de-Bayering can lead to unexpected erroneous results, both with PCC and SPCC. You can see two examples below; the first one is with the same Messier 33 image used previously:

https://pixinsight.com/doc/docs/SPCC/SPCC.htmlより引用

DebayerはRGBの3つのチャネルのデータを作る時に、足りないピクセルを補間します。通常の写真の場合や、天体写真でも大きな構造に対しては影響がありませんが、星などの小さな構造の色に影響を与えます。SPCCは星の色を頼りに色合わせをしていますので、それが問題になるわけです。

WBPPのDrizzle機能を利用すると「Debayerをしていない画像」を使ってDrizzleすることができます。その違いを見てみましょう。このデータは私が3年前に富士フイルムのX-T30で撮影したアンドロメダ銀河です。WBPP作成された通常のIntegrationデータ(Debayerされている)と、Drizzleデータ(Debayerされていない)の比較です。

SPCCでのDebayerとDrizzleの比較

以前からあれほど苦労していたPCC/SPCCでの緑かぶりが見事に消えています。緑かぶりの問題を起こしていたのはDebayerでした。Debayerが一枚の画像をもとに周辺のピクセル値から想定で色補間をするのにたいして、Drizzleは複数の画像を使って元のデータを正確に補間します。そこに精度の違いがあるのでしょう。

PCCでも結果は同じです。

PCCでのDebayerとDrizzleの比較

やはりDebayerは緑に被っているのにたいして、PCCは適切な色合わせになっています。

(効果2) ノイズの状態が良くなる

実は私はモノクロカメラだけを使っていた頃から、必ずDrizzleを実行していました。それは「SN比が上がるから」です。この事実は近江商人さんに以前に教えていただきました。このデータはその時に近江商人さんが見せてくださった画像です。

Drizzleありとなしの比較 (近江商人さんご提供)

クリックすると拡大できます。暗黒帯の部分をみるとわかるのですが、左の「Drizzleあり」の方がくっきりしています(ちなみにこのデータはScale=2でDrizzleしたあと、縦横を元の大きさに戻したそうです)。

上にあげたPixInsightのフォーラムによれば、データ補間によりノイズがより大きなスケールで分布するとのことです。カラーの場合はDebayerとStar Alignmentで、モノクロの場合でもStar Alignmentでピクセル補間されます。そこで局所的なノイズが増えるようなのです(Interpolationで設定する補間のアルゴリズムによっても変わるそうです)。Drizzleを使うことでノイズリダクションをかけなくても良い状態になるとあります。

ネットを検索してもDrizzleによりSN比が向上したデータがいくつか出てきます。一方で私のアンドロメダ銀河ではSN比の向上はあまりみられませんでした。画像により聞き方に違いが出るようです。

(効果3) おかしな画像(artifacts)が減る

画像の補間はDebayerの他にStar Alignmentによる位置合わせでも発生します。この際に位置の移動や回転によりピクセル補間がされます。この補間が問題をひきおこすことがあります。たとえば星の形が四角くなった画像をみたことがあります。また星の周りにリング上のノイズ(リンギング)がでることもあります。artifactsと呼ばれるこれらの現象はDrizzleによって改善することが多いようです。私自身も干渉縞(モアレ)が出た時もDrizzleによって解決しました。

OHZAKI Hirokiさんが効果を検証してくださいました。

OHZAKI Hirokiさんご提供のM31 (Scale=1, ディザリングなし)

星像がよくなっています。わかりやすいように下の画像をもう少し拡大してみます。

OHZAKI Hirokiさんご提供のM31の拡大 (Scale=1, ディザリングなし)

Drizzleなしでは星が少し四角くなっています。Star Alignmentでよくおきるダイヤモンドシェイプと言われるartifactです。Star Alignmentを使用しないDrizzleでは円に近くなっています。

またDrizzleありの方が、アンドロメダ銀河の緑かぶりもなくなりノイズも減っていることがわかります。効果1〜3の全部入りのデータを提供くださいましたOHZAKI Hirokiさん、どうもありがとうございます。

Drizzleの実行のしかた

WBPPを使うことでDrizzleは簡単に実行することができます。

まずWBPPのPost-Calibrationタブをクリックします。

WBPPのPost-Calibrationタブ

つぎにDrizzle configrationで、Enableにチェックします。

WBPPのDrizzle設定

このときScaleを1にすると解像度はあげずにもとのサイズでDrizzleします。またScaleを2以上にすると解像度をあげることができます。PCスペックに余裕がある場合はScaleを上げても良いですね。また複数のグループがある場合、Apply to all groupsをチェックすると全てに適用されます。

WBPP結果をみるとDebayerされたIntegrationファイルと、DrizzleされたIntegrationファイルが生成されます。このうちDrizzleファイルの方は「DebayerをしないDrizzle」です。WBPPを使わずにマニュアルでDrizzleする際にも、Drizzle Integration画面でEnable CFA Drizzleをオンにすることで、Debayer前のデータでDrizzleします。

星沼会のそーなのかーさんは以前から「 Debayerしないカラーカメラの画像処理方法」として独自の方法でDebayerを使わないDrizzleフローを考案されています。これは同じ効果を狙ったものと思います。鋭い考察でDebayerをスキップしたそーなのかーさん。あわせてご覧ください。

撮影時の注意

Drizzleは元の画像を再現するために「少しずつずれたデータ」が必要です。上でお見せしたアンドロメダ銀河は一軸の赤道儀であるSWATにオートガイドなしで撮影していますので、効果がありました。オートガイドを使っている場合は必ずディザリングを実行して、少しずつずれた画像を用意してください。

またPixInsightのスタッフのコメントによれば、画像は15-20枚程度でもDrizzleの効果はあり、サンプリングが適切なときはScale = 1で、アンダーサンプリングのときはScaleを2以上に設定可能とのことです。ただし、枚数が少ない状態でScaleを2以上にするとおかしな画像(artifacts)が出る可能性もあるので、ご注意ください。

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