たいへんな夜でした。
温暖な千葉県の南部にも関わらず吹雪になったのです。
今回の私はとても燃えていました。極軸ずれによる長く伸びた星は、PEC機能を搭載したSWAT-310V-specに申し訳が立たない。「もう1ピクセルとて流さないぞ」との決意を新たに現地には午後5時過ぎに到着しました。
実は数日前に「これからは北極星に頼った人生には別れを告げよう」との決意からドリフト法にチャレンジしています。南をむけて北に流れたら西にずらし・・のあれです。これをマスターすれば、撮影中に極軸がずれても大丈夫。ところが北極星が見えないところで実施したものの結果は無惨でした。やはり人生には羅針盤が、天文ファンには北極星が必要と悟り、そんなわけでPoleMasterを使ってきっちり極軸を合わせることが今回の課題です。
一軸の赤道儀SWATでノータッチガイドのため、私の露出時間は60秒を基本としています。しかしSWATのポテンシャルはそんなものではないはず。120秒きっちり露出できるよう修練の開始です。ちなみにノータッチガイドという不思議な言葉の語源を調べたところ、手動ガイドに対してのイノベーションとして登場したのがノータッチガイドとのこと。「触らなくてもガイドできた!」というその時代の熱量が伝わってきます。
完璧を目指して設置をするも・・・
PoleMasterで極軸を合わせて120秒露出・・を何度か繰り返していると、だんだん癖みたいなものをつかんできました。わかってきたのは次のようなこと。
- これまでトータル180度くらい回転させていたけど、実はトータル回転は90-120度くらいの方が精度が良さそう。
- モニター開始の後の微調整はやらない方が吉
これはSWAT-310との相性もありそうです。
こうして、おそらく今世紀最高の精度で設置したのち、目標の薔薇星雲を導入。薔薇星雲はプロキオンと同じ赤緯上にいるので導入は超簡単です。プロキオンを視野にいれて赤経を1hほど西に進めるだけ。構図も合わせて、ピントも合わせて準備万端です!それでは撮影開始と思ったら・・・
(あれれ、曇ってきた)
突然の吹雪
仕方がないので晴れ待ちをしていると天候は悪化の一方。ついに雪がちらつきはじめました。でもせっかく合わせた極軸がもったい無く、望遠鏡に毛布をかけてしのいでいると横殴りの雪に。慣れていない私には猛吹雪に映ります。
(こりゃダメだ)
しかたなしに三脚ごと避難を決めたのち、小一時間ほど雪が続いて雪は止みました。天気予報のSCWではここから晴れてくる予想です。北極星も見え始めたので、再び極軸を合わせです。今日すでに7-8回目。さすがに飽きてきました。
そうこうしていると仲間の星屋さん登場。ソーシャルディスタンスを気にしつつ聞いてみると、運転中はまったく降っておらず、雪が降ったとは知らなかったとのこと。降っていたのはここだけの様子です。しかしなかなかSCW通り晴れません。
再び猛吹雪からの・・
・・・となんと、またしても雪が降り出し、二度目の吹雪に。ばっちり合わせた極軸設定をあきらめ、また移動するはめになりました。雪は降りやまず空は真っ白。このときすでに午後11時。
「今日はあきらめですかねぇ。」
「12時まで粘ってみましょう」
そんな会話をしながらすでに12時。それでも晴れるまで粘っていると、なんと雪が舞う真っ白な空に、頭から尻尾までおおいぬ座の全身がまるでスポットライトに当たったように空に浮かんでいました。実に不思議な光景でした。そこだけ空が透き通っているかのよう。あまりの美しさに見惚れていると、徐々にオリオン座、双子座、ぎょしゃ座が見えてきました。雪はまだ降っていますが、南の空だけ見ると晴天のようです。
(これはいけそう)
だんだん晴れてきて、北極星も姿を表した時点で午前0時30分。山の影に薔薇星雲が沈むのが3時30分過ぎなので急げば3時間は撮れそうです。今日10回目くらいの極軸合わせをちゃっちゃと済ませ(あの念入りはなんだったのか)、速攻で導入して撮影開始です。今回はSAO、いわゆるハッブルパレットでの撮影なので、Hα、OIII、SIIフィルターを使いました。いつ天候が変わるかもしれないので、Hα、OIII、SIIをくるくる回しながらの撮影にしました。OIIIだけピント位置が少し違っていてフォーカスが甘くなりますが、今回はフォーカス変更はせずにフィルターを次々と変更しました。
その後はトラブルもなく、地平近くの高度が低い画像の含めると2時間半くらい撮影ができました。予定の半分以下の露出でしたが、今回は撮影できただけでも満足。スポットライトに浮かぶおおいぬ座を見ただけでも来た甲斐があったというもの!
初めてのハッブルパレットの画像処理手順は次回に記事にしますね。
<撮影データ>
2021年1月9日0時45分43秒〜
BORG 72FL + 7872レデューサー (288mm, F4)
ASI294MM Pro
Astrodon 5 nm Narrowband Filters – SII, H-α,OIII 5nm
露出(すべて-10°C冷却, Bin2x2, gain 120)
SII: 120秒x19枚
Hα: 120秒x37枚
OIII: 120秒x25枚
総露出時間 2時間42分
Unitec SWAT-310-Vspecでノータッチ追尾
PixInsightにて画像処理
撮影地: 千葉県大多喜町
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