2019年7月3日、チリで皆既日食を観測しました。これがもう・・見た直後は茫然自失と言いますか、途方に暮れると言いますか「ぼ〜っ」として何も考えることができませんでした。
日食が始まる前は「いま月があの辺にいるのかな」などと考えながら待っていました。これから月と太陽がぴったり合わさるのもわかってはいるけれど、やっぱり不思議な感じがします。
部分日食が始まり1時間ほど、太陽がだんだん細くなっていきます。突如周りが暗くなり始め、その雰囲気は不気味で動物たちも不安な声を上げます。
そしてついにダイアモンドリングから皆既日食の始まり。黒い太陽はまさに昔、教科書で見たままです。空には星が出ており、地平線近くはほんのり明るい。空には輝いている星は金星でしょうか。気に取られて空を眺めていると、またダイアモンドリングが始まり皆既日食が終わりました。
涙が自然に出てきました。人生で一度は見てみたいと子供のときから思っていましたが、43時間かけてチリまで行く価値はあまりあるほどでした。
観測地はウルタド渓谷といって、チリの中規模な都市ラ・セレナから100キロほど内陸に入ったアンデス山脈のふもとです。
宿泊施設の近くには、小さな天文台もあり皆既日食日食以外にも天体観測をチリのゴージャスな星空を楽しむことができます。この天文台の管理をしているチリ人のカルロスとは帰国後もやり取りをし、SkypeやWhatAppで望遠鏡の使い方やPixInsightの加工テクニックを教えてくれる仲になりました。
とにかく周りに何も無いので、天体観測を満喫した5日間でした。
ちなみに地球、太陽、月の位置関係はほぼ18年周期で繰り返されます。そのため18年おきに似たような日食が繰り返されます。これをサロス周期と呼びます。サロス周期にはいくつかの系統があり今回の日食はサロス127系統です。驚くことに、はるか紀元前の古代バビロニアの時代にサロス周期は知られており、日食の予測に使われたそうです。地球と太陽、月の関係が同じ位置を繰り返すといっても、地球全体の話で地表の位置は異なっており同じ場所で日食が起きるわけではありません。また、ある土地に生きた人は人生でそんなに多くの日食を経験したわけでもありません。通信手段も記録手段も限られた古代にどうして発見できたのか。人間はすごいなと思うばかりです。
<皆既日食データ>
観測地: チリ・ウルタド渓谷
西経: 70° 42′ 43.3″
南緯: 30° 17′ 51.8″
標高: 1102m
第1接触: 15:23:16.1
第2接触: 16:38:43.0
食の最大: 16:39:36.3
第3接触: 16:40:30.2
第4接触: 17:46:31.8