写真家の山野泰照さんの写真展にいってきました!

THE GALLERY 企画展 山野 泰照 虚空の如くなる心 宇宙の絶景を求めて

お友だちのぐらすのすちさんと、ニコンプラザ東京で開催されている山野泰照さんの写真展に行ってきました(THE GALLERY 企画展 山野 泰照 虚空の如くなる心 宇宙の絶景を求めて)。ぐらすのすちさんから誘っていただきました。行ってよかったです。マジで。感銘を受け、とても学ぶところが多い1日でした。

会場にはトークライブの成澤広幸さんもいらっしゃいました。トークライブは定員いっぱいで残念ながら参加できずでしたが、成澤さんも交えて、山野さんにいろいろお話をうかがうことができました。興奮冷めやらぬうちに、感じたことを書いておきます。

ナチュラルな写真

天体写真は目に見えない対象に対して、長時間の露光や画像処理を駆使して写真にします。そのため本質的に不自然なものなんだと思います。しかし山野さんの写真はとても自然です。ナチュラルで風景写真のような趣があります。それは随所にみられました。北アメリカ星雲は階調がとてもなだらかだし、月の地球照もHDR処理をされているにもかかわらず自然に見える。

とくに私の目を引いたのがプレアデス星団です。10年前にビクセンのR130Sfで娘と初めて望遠鏡で見たプレアデス星団が、こんなふうだったのです。山野さんのプレアデス星団は星の光が強く、目に「ばーん」と飛び込んできます。星の光がとてもまぶしい。そんな強い印象を与える写真でした。

プレアデス星団 (山野さんにご提供いただきました。この作品は写真展の会場でプリントで鑑賞するために製作されています。)

山野さんに伺ってみました。

 「目で見ることはできないけれど、宇宙旅行をして近くからみたらきっとこんなふうに見えるのだろうな」

そんな意識で作品を仕上げていらっしゃるそうです。成澤さんも月の地球照の写真を見て「望遠鏡でみたのと同じだ」とおっしゃられていました。「自然に存在するものとは到底思えない」という天体写真を目指したい一方で、「自然に感じる写真」も目指していきたいと感じました。

地球照 (山野さんご提供)

ドヤ感がゼロ

SNSで公開し、スマホでみていただくことの多い私の写真はどうしても、インパクトを狙ってしまうところは否定できません。ドヤ感が作品に与える悪影響は理解しているのですが、抜け切らない。その点、山野さんの作品はドヤ感がゼロ。清廉です。その効果は大きく、リラックスしてずっと見ていられます。

私は「見ていて心が浄化されるような写真」を撮りたいと常々思っています。それは仕事上の経験からきています。仕事で悩みをかかえる後輩から相談を受けたとき、とはいえその多くは本人でなんとかしなければならず、私では手助けくらいしかできないことがあります。そんなとき「まあ天体写真でも見るか」といって見せちゃったりしています。「このちっこいの10億年くらい前の光なんだよね。まだ地球にたいした生物がいなかった頃の光なんだよね〜」とか話していると、「なんか悩んでいるのがアホらしくなりました」といって元気に帰っていくのをなんども経験しています。

天体写真には人に巣食うモヤモヤとか汚い感じの部分を浄化してくれる作用があるように感じています。ドヤ感のある写真だと、より緊張感をもって戦いを挑まれている感じがしてしまい台無しです。

山野さんの写真はとても清らかで、ひとつの到達した形のように思いました。

余裕を感じる

私はプレアデス星団に感銘をうけましたが、ぐらすのすちさんは天の川の星景写真に興奮していました。

 「丹羽さん。この写真って我々が処理すると、きっと彩度をもりもりあげていますよね。そうしなくて淡い天の川であるせいか、大気光がとても綺麗です」

ドヤ感とちょっと似ていて違うジャンルに、盛っている感があります。天体写真の画像処理をしていると、ちょっとした青いところ、輝度の変化のあるところを見つけては強調し、色の薄いところをみつけては彩度をあげてしまいがちです。結果として全部入りのよくわからない写真になってしまう。

この天の川の写真は、あえて天の川の色を淡くすることで、緑色の縞模様とグラデーションをもつ大気光がとても綺麗に写っています。写真のもつポテンシャルを全部使い切らず、すこしマージンを残すことで、空間感というのか、間の力を感じることができました。全部やらないともったいない精神豊富な私には、なかなかのチャレンジです。

プリントとモニターの違い

今回、山野さんには根掘り葉掘りお伺いしましたが、印象に残っているお話でもう一つあるのが、モニターでみる写真とプリントする写真は別ものということです。山野さんは両者を別の作品として、それぞれにあわせた画像処理をされているそうです。そのために、なんども試し刷りもしているそうです。

私は天体写真はかけ算と思っています。

 (機材) x (撮影) x (画像処理)

足し算ではなくかけ算なので、ひとつを失敗すると全体の品質に影響を及ぼします。 山野さんのお話を聞いて、さらに掛け算が増えてしまいました。

 (機材) x (撮影) x (画像処理) x (紙) x (プリント方法) x (照明) x (展示レイアウト)

紙やプリント方法で結果が違うのはよく知っていましたが、照明の与える効果も大きかったです。会場でプレアデス星団の写真の照明を、あてたりさえぎったりをこっそりやってみました。照明をあてていないと眩しい星の光が薄れてしまいました。つまりこれくらいの照明を当てることを想定して画像処理の強度、印刷方法を変えているのです。

また展示レイアウトにも工夫が見られました。写真展はネットの写真と違い、見る順序を決めることができます。見ていただく方に心配りして、一番、意図が伝わりやすいように、見やすいように配置しているように感じました。

これからどうしようか

また宿題が増えてしまいました。上で書いたことは画像処理のやりすぎを少し落とせば達成するような簡単なことではありません。技術ではない何か足りないものがありそうです。ひとつのヒントはプリントで、より多くの人に直接見ていただく機会を通じて、足りない何かをみつけることができるのかもしれないと思っています。

山野さんは長年のキャリアの中で試行錯誤を経て、いまに辿り着いたのだと思います。私も模索が続きます。

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