Hαフィルターを使った画像のRGB画像へのブレンドをされる方が増えてきました。2020年末に書いたHαのブレンド方法をまとめた記事にも、アクセスをいただいています。このバンド幅の違いを考慮してHαから連続光を引く方法は、アカデミックに天体画像分析をするときにもよく使われる方法のようです。しかし、StarNetやStarXTerminatorなどの星消しツールが使えば、もっと精度良くブレンドできるはず! ということでいろいろ試してみました。なかなか良い結果を得られたのでレポートします。もっとも参考にしたのはVisibleDarkのこちらのYouTubeです。このビデオの手法をベースにアレンジしました。
素材はこちらのタランチュラ星雲です。Hαがたくさん存在する領域で、ブレンドをたっぷりしました。
星なし画像の作成
最初はブレンドの素材作りです。ストレッチ済のRGB画像とHα画像を用意します。今回のRGB画像はこちらです。
本来、Hα輝線がたっぷりのHII領域ですが、いまひとつ赤みが足りません。ここでHαの登場です。
前回の方法はHα画像からR画像を引き去って、連続光成分を削除することでつくりましたが、今回はStarNet2を使います。星なし画像を作るのが目的なのでStarXTerminatorやStarNetでも大丈夫です。
画像の名前をHa_Blendに変更します。この星なしHαをRGBにブレンドします。
PixelMathを使ったブレンド
Hα画像とRGB画像の輝度を調整します。全体が赤すぎにならないように、Histogram Transformationを使ってHαの輝度をRGBに比べて低めにしました。
次にブレンドです。HαとRGBのRチャネルを比較明合成により合成します。またRチャネルだけブレンするとカラーバランスが崩れるので、Bチャネルに少しHαを混ぜて赤紫気味にします。多くのHII領域にはOIIIも存在するので、少し紫っぽくするのが良いのだと思います。
Process – PixelMathメニューからPixelMathを起動して、次の式を入力します。RGB別の記載をするので、Use a single RGB/K expressionのチェックを外します。
Rチャネル: max(\$T[0], boost*Ha_Blend)
Gチャネル: \$T[1]
Bチャネル: iif(\$T[0]<boost*Ha_Blend, \$T[2] + B_boost*Ha_Blend, \$T[2])
Symbols: boost=1.2, B_boost=0.06
RチャネルはRとHαを比較して明るい方を採用すると言う意味です。またBチャネルはHaよりRの方が明るい場合、Bチャネルにもブレンドします。この式を設定したPixelMathの▲ボタンをRGBチャネルにドロップします。
PixelMathの式で、Symbolsに定義した”boost”と”B_boost”はパラメータです。何度か実験して決定しました。お使いの画像に応じて調整してみてください。
PixelMathへのより詳しい設定方法を質問コーナーに記載しました。あわせてご覧ください。
Hαへの画像処理
これでめでたしめでたしと思ったところ、ひとつ問題があります。タランチュラ星雲の中心部をご覧ください。
タランチュラ星雲はほんのり青いのが綺麗なのですが、Hαをブレンドすることで白くなってしまいました。星は青いものの星雲部分が白くなってしまっています。Rチャネルに面でブレンドしたため青みが消えたのでしょう。どうしたものかと考え、Hαのブレンド比率を変えたり、マスクを使ったりしましたがうまくいきません。思いあぐねていると、そーなのかーさんが「Hαに HDRMTをかけてはどうか」とアイデアをくれました。HDRMTとはHDRMultiscaleTransformationのこと。HDRMTをかけることでHα画像の濃淡を強くし、Hαを面全体に効かせない作戦です。試してみました。
細かくかかるようにNumber of layersは5。また強めにかけるため普段使わないOverdriveを0.1としました。実行するとこんな感じです。
面で広がっていたHαが、HDRMTをかけることで濃淡が強くなりました。薄い部分は、青みが残る期待ができます。これはいけそう。このHα画像をブレンドしてみます。
効果はてきめん。見事に青みが残りました。面白いですね。マスクを使って恣意的にしなくても、ちょっとした工夫で目的の効果を得ることができたのです。さすが、そーなのかーさん!
ここではHαにHDRMTを効かせましたが、他の画像では、Hαの違う処理方法があると思います。状況に応じてHα画像を処理してブレンドした方がよい、というのが趣旨です。
今回はHαのブレンド方法をアップデートしました。PixInsightで新しい処理が出るたびに、新たな画像処理方法を模索していきたいと思います!