たのしや福島遠征 〜 アイリス星雲とまゆ星雲

その日は、はやる気持ちを抑えて福島へ向かいました。天文仲間と遠征地で落ち合うことにしていたのです。メンバーの半分は会うのは今回が初めて。

星屋さんとぐらすのすちさんとは、いつも遠征先で一緒です。まちょさんも先日、ご自宅にお邪魔して、ぐらすのすちさんと共に光軸合わせを研究しました。無造作に置かれたCCA-250やFSQ-106EDに心ときめいた私は、まちょさんが外出した際に「望遠鏡をかっぱらって、アカウント削除して、逃走するぞ」とぐらすのすちさんに言い渡したのが、つい昨日のことのようです。

だいこもんさん、そーなのかーさん、HARAさんはお会いするのは今回が初めて。高揚した気分で現地につきました。駐車場に近づくと前を歩く3人。うち2人はまちょさんとぐらすのすちさんですが、もうひとりは・・・

  「お、だいこもんだ」

実は私にはある疑惑がありました。だいこもんさんとは深い付き合いですが、会ったことがありません。ディスプレイ越しに見るその姿は、もしかしたらAIの作り出す虚像では。もしくは若者が身にまとったアバターでは(その目的はなんだ?)と、一抹の不安を抱えていました。しかし会ってみるとオンラインでみる姿そのもの。感動の出会いをする予定でしたが、ぜんぜん違和感なく「あ、どもども」って感じの拍子抜けしたものでした。それはそれで「友だち付き合いはネットでもOKじゃん」と安心させる材料でもありました。

撮影地につくと、旧友の星屋さん(出会って2年ですが星仲間としては古株!)、いつも何かと教えてもらっているそーなのかーさん、最近知り合ったばかりのHARAさんもいらっしゃいました。ぐらすのすちさんは「電気を切り忘れた気がする」と、あるあるの理由で途中引き返して遅れてくるとのこと。切り忘れがなかったことは言うまでもありません。

奇跡の3時間

昼間に荒れ狂った暴風も夕方にはおさまり、設営を始めました。私はそーなのかーさんの隣に陣取りました。私のうしろには大型の望遠鏡がならびます。まちょさん、だいこもんさん、HARAさんです。さらにその横にはお気楽二人組。星屋さんとぐらすのすちさん。きっと撮影もそこそこにコーヒーをたしなむことでしょう。

設営中
設営中 人はどこへ行った?

20時頃から開始するも、少し撮影しては雲り、晴れたと思って再開しては曇りが続きます。一人ではいじけてしまうところですが、今夜は大丈夫。なんやかんや話をしながら雲がなくなるのを待つことができました。途中で恒例の美味しいコーヒーも。

星屋さんと私
宇宙人のような星屋さん(右)と私  (撮影:ぐらすのすちさん)

楽しかったのは眼視です。撮影は無理なときでも眼視なら雲の切れ間から見ることができました。HARAさんの持ってきた望遠鏡のμ-180でみる球状星団のM13の凄さと言ったら・・! 球状星団はたくさんの星ぼしがまりものような丸い塊になっています。写真に撮るとひとつの星が綺麗に写りますが、目で見るとぼ〜と巨大な光の塊にみえてしまいます。それが一粒一粒、つぶつぶに分かれて見えるのです。あの美しさは忘れられません。望遠鏡は星を見るものなのですね!

そうこうしているうちの夜中0時半くらい。ついに本格的に雲がなくなりました。撮影の開始です。この日は0時半から3時間ほど、今にして思えば奇跡のような晴れ間に集中的に撮影ができました。

ところで、今回の遠征。実はひとつのくわだてを試みました。事前の協議により、全員で同じ天体を撮影することにしたのです。

競わないという選択

鏡筒が全部同じ方向を向いているのが泣かせます
鏡筒が全部同じ方向を向いているのが泣かせます

撮影対象はアイリス星雲とまゆ星雲です。望遠鏡の焦点距離によって2つの班に分けました。曇り空の可能性が高く、短い時間でも成果を出せるのが理由のひとつ。とくにまゆ星雲は淡いのでみんなで撮ると威力を発揮しそうです。

もうひとつ、私がこだわったのが競わないこと。

天体写真は創作活動であるためどうしても人との比較がつきまといます。そのため撮影地でトラブっている時に快調な人をみるとうらめしく感じてしまったり、立派な機材にジェラシーを覚えたりは、否定できません。しかし、みんなが初めて集まる今回の遠征は、最初から最後まで楽しいものにしたい。そこで編み出されたのが、全員で同じものを撮影して混ぜちゃう作戦です。

みんなで撮ったアイリス星雲 (前処理:そーなのかーさん、後処理:だいこもんさん、ちゃちゃ:皆さん)
みんなで撮ったまゆ星雲 (前処理:そーなのかーさん、後処理:だいこもん、ちゃちゃ:皆さん)
みんなで撮ったまゆ星雲 (前処理:そーなのかーさん、後処理:だいこもん、ちゃちゃ:皆さん)

学生のころ、球技大会より学園祭派であった私。全員で同じ対象を撮影するのは、学園祭を彷彿させる予想以上に楽しいことでした。自分の機材が不調であっても誰かが好調なら、セカンドのエラーをショートがカバーするかのごとく「良かった。なんとかなる」という気分になります。また口径72mmの私の鏡筒と、200mm越えの大型鏡筒が並ぶ姿は、さながら一番バッターと四番バッターです。やはり四番が打つとうれしいし、一番はその役割を全うすべく、すかさず塁に出て枚数を稼ごうという気になります。 ん?・・・たとえが球技大会になってる・・?

完成したのが上の2つの写真です。画像処理も個人の得意な領域が発揮されました。そーなのかーさんは前処理の貴公子。大量の画像をクオリティを保ちつつまとめあげてくれました。分析的なエンジニアリング作業が中心です。アート要素も加わる後処理は、その審美眼とテクニックに定評のあるだいこもんの活躍の場です。情報量の多い対策を見応えある作品に仕上げてくれました。

しかし、この横長のアイリス星雲の構図。ほんとは右半分だったはず。正解はこちらです

私の撮ったアイリス星雲
私の撮ったアイリス星雲

それが、大きな絵巻になったのは・・・誰か左右をまちがえたな。アイリスの右手(西側)を撮ろうって確認したじゃ〜んww。みんなの画像を処理で重ねるときに、そーなのかーさんが使ったチャートを見せてもらいました。

間違えたのは誰だ! (そーなのかーさん提供)

あ〜。二人ほど、見事に反対側を撮っています。これ、めっちゃおもしろ〜い。みんなで力を合わせているようで、実際はあさっての方向を向いていたのですね。一番外側の二つはそーなのかーさんの広角レンズです。広く、しかも間違いの左側もフォローしています。イチロー並みの守備範囲の広さだって帰ってからみんなで話しました。

怪我の功名とはこのこと。結果として普段は撮らない壮大な絵巻になりました。私の写真とはスケール感も色の出方も濃淡も違います。

うん。混ぜて正解!

翌日は近くの施設で画像処理や光軸あわせの勉強会をしました。

真面目に画像処理勉強会
真面目に(?)画像処理勉強会 (撮影: だいこもんさん)

楽しかった今回の遠征。最後に記念記念撮影をして別れを惜しみながら解散です。思い出に残る夏休みでした!

記念の一枚!
記念の一枚! (注: 私と右隣のまちょさんはコピペではありません。撮影:ぐらすのすちさん)

ぐらすのすちさんによる遠征動画もぜひお楽しみください。力作です。

<撮影データ>
2021年8月10日
撮影地: 福島県田村市

■みんなで撮ったアイリス星雲

  • 星屋: デジボーグ77EDII + EOS6D (1時間54分)
  • だいこもん: Aposekor + ASI2600MC Pro (1時間56分)
  • まちょ: FSQ-106ED + D810A (1時間28分30秒)
  • そーなのかー: Samyang + QHY5III174M (3時間28分)
  • そーなのかー(別フレーム): Samyang + QHY5III174M (3時間20分)
  • Niwa: Borg72FL + ASI294MM Pro (1時間48分)

総露出時間 13時間54分30秒

■みんなで撮ったまゆ星雲

  • ぐらすのすち: FC-76 + ASI2600MC Pro (1時間58分)
  • だいこもん: RASA 11+ ASI294MC Pro (1時間28分)
  • まちょ: CCA-250 + QHY16200A (3時間10分)
  • そーなのかー: R200SS + EOS Kiss X7i (2時間52分)

総露出時間 5時間28分

■アイリス星雲(Niwa撮影分)
2021年8月10日21時41分40秒 〜 8月11日3時24分23秒
BORG 72FL + 7872レデューサー (288mm, F4)
ASI294MM Pro 
Astrodon LRGB Gen2 E-Series Tru-Balance Filters
露出(すべて-10°C冷却, Bin1x1, gain 120)
 L: 120秒x18枚, 30秒x54枚
 R: 120秒x9枚, 30秒x41枚
 G: 30秒x33枚
 B: 30秒x44枚
 総露出時間 2時間20分
Unitec SWAT-350-Vspec Premium
QHY5L-IIM/ミニ・ガイドスコープ + PHD2
PixInsightにて画像処理

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