自粛上等! 横浜の空に浮かぶM8干潟星雲 〜ナローバンド撮影

横浜で撮影したM8干潟星雲
横浜で撮影したM8干潟星雲

いま世界中で空前のブームとなっている(?)ベランダ天体撮影。私も負けじとチャレンジしました。灰色の何も見えない空の横浜にしっかりM8干潟星雲が浮かんでいました。

自分としては綺麗に写ったと満足しています。空は明るく星は4-5個しか見えない。こんなので本当に写るだろうかと撮影前は心配していたので、最初の試し撮りでファインダーに赤い星雲が写っていたときは大感動! ベランダ撮影は部屋に物を取りにいったり、撮影中に食事したり、お風呂に入ったり、快適で病みつきになりそうです・・・。

ナローバンドフィルターはSTC社のAstro Duo-Narrowband filterを使用しています。私のビクセンR130Sfはフィルターを装着する方法が見つからず「はて、どうしたものか」と困っていたら、STCから富士フイルムのカメラにも直接装着できるこのフィルターを発見。HαとOIIIを通すデュアルフィルターです。日本の販売店では取り扱いが無かったのでSTCのサイトの直販ページから注文したところ、台湾から1週間程度で到着しました。また今回はコマ対策に作った自作のコマコレクターもデビューしました。これも効果検証ができたらレポートしようと思います。

ベランダのお約束で北極星は見えず、ドリフト法により極軸あわせをしました。まずスマホのコンパスと傾斜計で赤道儀のSWATを正しい方向にあわせます。次に南の星を数分撮影し、北にずれたら東に、南にずれたら西に調整します。西の星も同じく撮影し、北にずれたら北向きに、南にずれたら南向きに調整します。(今回は西の星を使ったので、東の場合と向きは逆になります)

ドリフト法は本来、赤道近くの星を使うそうなのですが、いま空に見えるのは木星、土星、スピカとアークトゥルスくらい。そんな贅沢は言ってられません。南をスピカ、西をアークトゥルスで調整しました。この日は夜中まで曇っていて、日が昇る前の薄明まで数時間しかなかったので、それ程追い込むことができず星が少し卵形になっているのがちょっと悔やまれますが、これは次回の宿題に。

赤い光の正体。Hαってなに?

ナローバンドフィルターでは星雲から出るHαという光を捉えます。このHαについてちょっとお話ししたく思います。(以下の記載は日本評論社 「シリーズ現代の天文学 星間物質と星形成」を参考にしています。大学生の娘の本棚にこの教科書を見つけてちと拝借・・・)

宇宙には水素原子がたんまりあります。我々の周りには炭素や鉄などいろいろな原子がありますが、もともとは水素が星の中で融合してヘリウムになり、炭素もでき、最後に星が爆発するときにさらに重い元素もできて宇宙にまき散らします。ですから我々、人間や地球はいわば星の残骸からできているわけです。

たくさんある水素は陽子と電子が結びついており、陽子と電子がくっついた中性水素という状態と、バラバラに電離した状態の2つの状態があります。

光電離の反応式
光電離の反応式

ここで式の中にエネルギーがあるのがミソです。中性水素にエネルギーを与えると電離しますし、電離状態からくっつくとエネルギーが放出されます。

ガス星雲には電離している領域があります。電離領域とは上記の電離水素が主成分の領域のこと。エネルギー供給源はおおきく2つあって、ひとつめはオリオン大星雲のように年齢の若い高温の恒星によって作られる電離領域です。みんな大好きトラペジウムに照らされて作られた電離領域もそうですね。ふたつめは惑星状星雲にみられる、星の進化の終わりにできる高温の白色矮星によって作られる電離領域です。年老いた白色矮星を取り巻くガスが照らされています。前者の発光星雲は眩しい若者の集い、後者の惑星状星雲は年配者がアートを楽しんでいる、という感じでしょうか。

紫外線による水素の電離
紫外線による水素の電離

そんな電離した陽子と電子も、うっかり再結合することがあります。水素の電子は自由にどこにいても良い訳ではなく、決められた起動上を回ります。

水素の軌道
水素の軌道

再結合した電子もどこかの軌道上に収まります。このとき一番内側の軌道のn=1が一番エネルギー状態が低いのですが、全部n=1になるわけではなく、n=2,3・・・と高い状態に再結合する電子もあります。その再結合した電子が「やっぱりエネルギーが低い方が落ち着いてて良いなあ」と内側の軌道に遷移するとき(カスケード遷移といいます)、あまったエネルギーを放出します。この放出されたエネルギーがガス星雲の光なのです。

カスケード遷移とHα線
カスケード遷移とHα線

その中でn=3から2に遷移したときのエネルギーがHα線です。ちなみにHβ線、Hγ線も同じくカスケード遷移で発せられた光です。

輝線の種類遷移前の順位遷移後の順位波長λ(nm)
Hα線32656.28
Hβ線42486.13
Hγ線52434.05
カスケード遷移と輝線の種類

電離水素が発光源になっている星雲は同じしくみで同じ波長の光が出るので、フィルターが使え、おうちから撮影できるんですね。

<撮影データ>
2020年5月30日2時49分44秒〜
Vixen R130Sf (650mm, F5)
Fujifilm X-T30
STC Astro Duo-Narrowband filter
自作コマコレクター (スマホ天体望遠鏡 mAmANDA UD*ecoの接眼レンズ利用)
露出 30秒x49枚コンポジット (総露出24分30秒)
ISO6400
Unitec SWAT-310-Vspecでノータッチ追尾
PixInsightにて画像処理
トリミングあり

撮影地: 横浜市街

タイトルとURLをコピーしました