(赤裸々報告) 宇宙のすごさ、美しさを伝えたい。画像処理でやったこと 〜 星ナビに掲載されました

ろ座銀河団 (星ナビGallery掲載作品 星ナビ2022年5月号) 高解像度版はこちら

ろ座銀河団が星ナビ2022年5月号の星ナビGalleyに掲載されました。嬉しかったのは編集部のコメントで「ディープスカイ撮影の醍醐味が詰まっています」とあったこと。

私が天体撮影したり、ブログを書いたり、雑誌に投稿したりしているモチベーションは「宇宙はこんなにすごいんだぜ」と宇宙自慢をしたいことです。子供のころから「王選手のここがすごい」とか「宇宙はこんなに大きい」とか、ネタを仕入れては人に吹聴するのがたまらなく好きでした。すごいものに目が無い。ちなみにいまは漫画のYAWARA!を読み直しています。柔ちゃんもすごい。私は自分のことではないのに、嬉しそうに自慢するタイプです。今回もチリの空のことや、天体写真の面白さが伝わると嬉しいと思っています。

ろ座銀河団のすごいところは、NGC 1365の独特な形と小さな銀河がたくさんあるところです。このすごさ、美しさを引き出すために画像処理には工夫しました。

独特な形をしたNGC 1365
小さな銀河がたくさん

太陽光のもとで撮影する通常の写真と違い、天体はあまり目に見えなかったり、見えても白黒に見える対象を撮影します。そのため人が鑑賞できるようにするには画像処理が必要になります。今回もいろいろやっています。今回は、そんな裏側を赤裸々にお見せしたいと思います。

(その1) たくさんのマスクを使いました

画像処理の対象を絞るために、天体写真では多くのマスクを使います。今回はこれだけのマスクを使いました。

使用したマスク

今回が特別多かったわけでなく、いつもこれくらい使っています。たとえば星を保護して全体を処理するときは星マスクを使い、天体だけに処理をするときはオブジェクトマスクを使います。輝星マスクは輝星のカラーバランスの修正に使いますし、とくにハロを抑えながら処理をしたいときは星が小さめの輝星マスクを使います。

使い方の例を紹介しますね。下段右から2番目の「小さい銀河用マスク」は、その名の通り小さい銀河の処理に使いました。よくみてみると写真には下の方にかわいい渦巻銀河(NGC 1369)が写っています。この銀河のコントラストを少し上げるためLHE(Local Histogram Equalization)を適用しています。

少しぼけていたのをくっきりさせることができました。この時、横にある輝星や他の天体に影響を与えないように小さなマスクを作ったのです。

(その2) 背反する二つの銀河

この写真には二つの大きな銀河が写っています。左上の楕円銀河NGC 1399と右下の形が特徴的な棒渦巻銀河NGC 1365です。この二つの銀河のバランスに苦戦しました。

まずこちらをみてください。

楕円銀河の処理比較
楕円銀河の処理比較

右の方が立派です。周辺部まで光芒が広がり、なにより色が良い。右の方はしっかりストレッチをしっかりし、また彩度をあげたためです。しかし大きな問題があります。右下の棒渦巻銀河です。同じ処理の棒渦巻銀河部分を見てみましょう。

棒渦巻銀河が破綻
棒渦巻銀河が破綻

あらら、棒渦巻銀河がえらいことになっています。明るすぎますし、色も変です。全体を見てみましょう。

全体の比較
全体の比較

一目瞭然です。こっちを立てたらあっちが立たず。あっちを立てたらこっちが立たず。楕円銀河にあわせて処理すると棒渦巻銀河が明るくなりすぎ、棒渦巻銀河に合わせると楕円銀河が貧弱で色も変です。これには悩みました。マスクを使って個別に銀河を処理してみましたが、輝度のレベルが違いすぎてマスク跡が不自然に出てしまいます。

試行錯誤の末にとった方法は、楕円銀河にマスクを広くかけ、上記の二つの画像を楕円銀河部分だけ少しずつブレンドすることです。

しずつブレンド
左が棒渦巻銀河に合わせた画像。それに楕円銀河にあわせた画像をブレンド。右の方がブレンド率が高い

ブレンドするときは背景の輝度を一致させて不自然にならないように注意しました。かなり立派にはなりました。

(その3) 青い銀河の腕の処理

最後に棒渦巻銀河の処理の工夫です。棒渦巻銀河であるNGC 1365は小さいにも関わらず、しっかり解像し色もよく出ました。青い腕もしっかり表現できたと思います。

NGC 1365の全景
NGC 1365の全景

この画像、実は人に言えない恐るべき秘密が隠されています。

まずはこちらの天リフ記事の「軸上色収差が性能に与える影響」の「肉眼の場合」と書かれたテストチャートの部分をご覧ください。

「軸上色収差」【望辞苑・第1回】 | 天リフOriginal
新連載「望辞苑」の第1回は「軸上色収差」です。 凸レンズを通った光は色によって曲げられ方が違うため、赤い光はよりレンズから遠い位置に焦点を結び、青い光は近い位置に焦点を結ぶことになります。つまり、色によってピント位置が異なる結果になります。これを軸上色収差と呼んでいます。

こんな記載があります。

人間の眼は緑色で最も感度も解像力が高く、また赤色・青色ではあまり細かい構造を識別することができません。

天リフ オリジナル記事「軸上色収差【望辞苑・第一回】」https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/03/23/4199/

この人間の目の特性を活かして処理をしました。一見普通に見える棒渦巻銀河の画像。RGBに分解してみてみましょう。

NGC 1365のRGB分解

こんなことをしちゃってます。青の強さを出すためにBチャネルだけ解像度を無視して強調しました。RGBそれぞれの画像を見比べてみると、Gチャネルが最も高精細で中央のコア部分のZ模様もしっかり見えています。一方でBチャネルはダンゴです。これを合成すると、あら不思議。解像感を保ったまま青がしっかり出るのです。

科学技術の世界では、天体の撮影データを解析し変換することで、もとのデータに潜んでいる科学的事実を浮き彫りにします。特徴を見極めるために、特殊な処理により一部を強調することもあるでしょう。同じように天体写真の画像処理も強調したり特殊な処理をしたり、あの手この手で元のデータに隠れていた美しさを引き出していきます。撮ったままなにも処理をしない写真はもちろん真実ですが、撮影データに何かを恣意的に足すことなく、処理を重ねることで美しく仕上げた天体写真もまた真実なのだと考えています。

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