天体写真界隈で、自分の天体写真観をまとめることが流行っています。いろいろな人の考えを聞くのは楽しい。私も流れに乗っかってまとめてみました。
私の天体写真のコンセプトは・・・
宇宙は不思議で美しい
もう、めっちゃ不思議でとっても美しい天体写真を世に出したい。これがモチベーションです。
自分のために天体写真をやっているということももちろんありますが、だけど誰かに見てほしい。私の天体写真は、主に宇宙のことをあまり知らない方、天体写真を撮影をしていない方をイメージして制作しています。
見てもらう場の多くは飲み会です。だんだん皆んなが酔ってきて場が盛り上がってきた頃を見計らって13インチのiPadを取り出し、ひとしきり解説をしています。「これは銀河で2,000万年前の光で・・・星が6,000億個くらいあって・・・中心にはブラックホールがあって・・・」みたいな解説を頼まれてもいないのにやっています。「えー、綺麗〜」とか「すごーい」とか盛り上がるのを聞くとご満悦なんです。この場合の「すごーい」は天体写真に向けられるのではなくて「宇宙って、すごーい」と宇宙に向けられたくて、ちょっとだけ話を工夫しています。宇宙のすごさに対するドヤ顔は、いくらやっても良いものです。また仕事でもパソコンの背景を自分の天体写真にしています。今週もお客様との打ち合わせの際に、モニターで資料を見せる前にひとしきり宇宙コウモリ星雲の解説をしてしまいました。私に慣れている人は「またやっている」とニヤニヤしています。
淡いままにしておく
写真をひたすら美しくしたいと気をつかう結果、私の天体写真には一つの特徴があります。それは「淡い部分を持ち上げない」ことです。天体写真をやっている方が、私の写真を見たときによく言われる反応が、
「これ、もったいないですよ!」
銀河の周辺に広がる光芒や分子雲などあまり強調せず、淡いままにしています。

例えばこちらのM83南の回転花火銀河は、自分としては清らかな透き通った感じの銀河に仕上げることができてとても気に入っています。実はデータ上ではアウターハローと呼ばれる光芒が銀河の周りに写っていて、銀河の倍の大きさくらいまで大きく広げる強調も可能です。そのとき一番大きな腕は画面の上部近くまで到達しています。しかし、そうしてしまうと私の目には肝心の銀河が綺麗に見えなくなってしまうのです。やっぱり真っ暗な背景にぽっかり渦巻銀河が浮かぶので綺麗に見えるように感じて、薄雲のような背景にすると清らかさが失われてしまう。私としては「綺麗〜」と言われるチャンスがなくなって、ガックリです。
同じことは星雲の写真を撮った時の分子雲の処理にもいえます。分子雲を強調すると、肝心の天体がぼやけてしまう。画面全体に広がる分子雲は、天体の見た目のコントラストを下げてしまうように私には感じます。そのため多くの場合、分子雲もうっすらにしています。
今年の最初のブログに書いたことの繰り返しですが、天体写真の画像処理は、元の素材のポテンシャルをどこまで引き出すかが一つのポイントだと思います。私はこれまで、かなり控えめな処理をしてマージンに余裕を持たせていました。破綻のリスクを避けられますし、見た目にも無理のない仕上がりになるからです。「高音が4オクターブ出る歌手が2オクターブで歌うような(ちはやふる 35巻)」もしくは「小さな声で歌いなさい(中島みゆき)」という世界観。
だけど本人としては「それで良し」としているわけではないのです!もっと上手なやり方を工夫すれば、画面全体のコントラストを維持しつつ淡い部分も表現できるはず。そんな方法があるんじゃないかと研究しているところです。天体写真を見てもなかなか思いつかないので、絵画なども参考にしています。しかし、まだ手がかりさえつかめず・・・。先は長そうです。
一方で星のハロは・・・
銀河の光芒は星の集まりですし、分子雲も水素分子や一酸化炭素などの星間物質です。実在する天体です。こんな本当の天体をないがしろにしてしまうくせに、本来、光学系のエラーであるはずの星のハロは好きだったりします。

これは私のお気に入りのNGC 2170とNGC 2185です。「2頭の蝶々が夜の街に迷い込んだような怪しい雰囲気をかもし出すように表現しました・・・」という話を、夜の街で飲みながらやっています。星には盛大にハロがでています。左の青い星はおそらくフィルターからのゴーストがありますし、NGC2170の下の黄色い星はいわゆるサッポロポテト現象もでています。だけど、それら全部あわせて私には綺麗に思えます。だから、むしろ強調してしまいました。
つまり私は「綺麗にみせるためには節操がない」タイプの天体写真家です。
強い処理をすることで現れる宇宙の姿
画像処理は素材の画像に手をいれていくので、すすめていくと撮影した生の状態からはどんどん離れていきます。しかし強い処理をすることで逆に「不思議で美しい」宇宙をより表現できることもあると思っています。
こちらは2年半前に個展を開催したときの「ほ座超新星残骸」です。大判プリント専用の作品にしていたので、これまでネットには公開していませんでした。

個展では拡大で見てほしいので、自分の背丈近くある150 cm x 100 cmサイズに大きくプリントしました。
この写真を通じて、次のような不思議な宇宙の姿を知ってもらおうと考えました。
- 我々の体を含む多くの物質を構成する元素は、このように星が寿命を終えて爆発したときに作られる。カールセーガン博士はこのことを「私たちは星くずでできている」と表現した
- 爆発の残骸が横に約50光年、縦に約80光年と大きく広がっているが、まるで顕微鏡による高分子のミクロな世界に見える。こんなミクロとマクロの不思議な相似形が宇宙にある
一つ目の星屑の話は宇宙の話でも好きな話の一つです。また相似形の話は、天体写真をやっている人はいつも思うのではないでしょうか。夕方の雲が星雲に見えることも多いですし、顕微鏡に宇宙を感じることも多くあります。
体の内部のような網状のフィラメント構造を強調するために、この写真は星を消していますし、カラーではなくモノクロにしました。この写真は8枚モザイクですが、中央一枚のカラー写真はこんな感じです。

人の目はカラーになると構造が見えにくくなるのですよね。このカラー写真は書籍「PixInsightの使い方[基本編]」の裏表紙にしたくらいですので天体写真としては気に入っています。しかし上述した不思議さを伝えるために、思い切って星を消したモノクロ画像を使うことにしました。
あえて思い切った加工・処理をして、本当の姿から遠ざけることで、つまり「宇宙の不思議さ、美しさ」を伝えることもできると思うのです。
画像処理のこれから
私は天体写真を始めてから一貫してPixInsightを使っています。PixInsightで画像処理の基本から応用まで覚えましたし、実際のところ「PixInsightの使い方だけ知っている」のです。Photoshopはなんどかチャレンジしたのですが、私には難しくて挫折してしまいました。ただPhotoshopやステライメージなどの天体写真の画像処理の解説を見てみると、やっぱり基本は、カラーバランス、コントラスト、星の処理などであって、そこに道具の違いはあまり感じていません。応用編になってくるとプラグインの違いで、処理や表現が変わってくる側面はありそうではあります。
AI系の画像処理ツールは、現在のところはギリギリセーフと感じています。もともと私は難しいDeconvolution処理がとっても得意な「Deconvolution職人」であると自負していました。しかしBXTの登場によってDeconvolutionが不要になりました。世の中で「AIに職業を奪われた人」の話が話題になることがありますが、私もその一人なのです(笑)BXTは使ってみるとパラメーターを間違えなければ、割と自然に仕上げることができるのでセーフに感じます。ノイズリダクションはツールによって私にとっての評価が分かれています。やはりAI系のNoiseXTerminatorは自然で活用しています。画像処理のツールは使ってみた感覚でセーフかアウトか決めていきたいと思います。また今後は生成AIを使った天文ツールも登場しそうです。それは避けたい。生成AIにはこの世界に侵入してほしくないと思っています。
今回の記事で語った「宇宙は不思議で美しい」というコンセプトは2年半前の個展の時に思ったことが基本になっています。私はそこからまだ「3歩進んで2歩下がる」状態です。ツールの進化もあって自分の画像処理の技術は向上したと思いますし、動画やブログなどでの情報発信もやっています。だけど上に書いた「淡い部分も強調しながら全体の見栄えも良くする」ような話も含めて、もう一歩進化したいと思って、はや2年なんですー。
そうこうしているうちに、AIが猛攻をしてきそうな予感もあります。模索がつづきます。頑張れ!私。
