宇宙のスケールを伝える良い方法

誰かに天体写真を見せた時に、宇宙のスケールを伝える良い方法を思いつきました。

私はプライベートでも仕事でも、だれかれ構わず自分の天体写真を見せる癖があります。それは「宇宙の広さをより多くの方々に知っていただき、天文界の発展に貢献したいから」・・・では決してなく、単なる「自慢」です。「これ見て見て」「良いでしょ〜」というやつです。仕事で初めてお会いした方にも挨拶がわりに見せるので、打ち合わせの冒頭にまあまあ時間がとられてしまいます。私の周りのメンバーは「丹羽さん、そろそろ本題に入りましょうか・・・」とそこは手慣れたものです。

多くの方は中学生くらいのころに天体写真を教科書でみたことはあっても、最近のデジタルによる高精細な画像は見慣れていないので、その美しさに驚いてくれます。そこで間髪入れず「実はこの銀河は、6500万年前の光なんですよ」とお約束の一言をいれます。「恐竜が絶滅したころですね」ととどめの一撃で「おお〜」となるわけです。宇宙の時間スケールの壮大さを感じてもらったところで「ご依頼いただいた仕事が1週間遅れてしまいそうですが、気にされますか」という言葉をぐっとこらえつつ、本題が始まります。

しかし最近、このネタだけではちょっと物足りなくなってきました。2度目に会う方などから「新しい写真ありますか?」と聞かれるときにも新しい切り口が欲しい。そこで思いついたのが、写真に写る天体の大きさを伝えることです。

光が届く時間が15年ずれる

たとえば先日撮影した魔女の横顔星雲。写真の短辺が25光年くらいなので、鼻先からうなじまで15光年くらいの幅があります。そうするとこんな会話ができます。

 「魔女の横顔星雲は、40光年くらい離れたオリオンの左足、リゲルから照らされています。でも全体が同時に照らされているのではなくて、光が鼻に到達してから、次にうなじに到達するまで15年もかかっているのですよ。そんなに時間差があるんです」

さらには、

 「我々を照らしている太陽も、実は8分20秒前の姿なんですよ」

と会話が続きます。そうなると多くの方が

 「ええ!? じゃあ、太陽はもしかしたらもう爆発して無くなっているかもしれないじゃないですか!」

的なコメントをされるので、

 「そうなんですよ。だから契約書に早くサインくださいな」

という言葉をまたぐっとのみこみます。

銀河の場合も、その巨大さを伝えるのにやっぱり効果的です。

NGC 300の大きさ

これは昨年撮影したNGC 300です。光速で飛んでも端から端まで4万年かかる。そんなスケール感を伝えたあとに、こう続きます。

 「我々の住む銀河系の大きさは10万光年。これの2.5倍です」

NGC 300を軽くディスりつつ、我々の銀河系の偉大さを讃えて良い気分!というわけです。

この大きさを伝えることは今回気がついたのでなくて、過去の成功体験からです。2021年にケンタウルスAのブラックホール由来のジェットを撮影したとき、最終形の写真よりも中間処理に使ったジェットの写真の方が人気でした。

ケンタウルスAのジェットの大きさ

ジェットは「ピュッと飛び出した」感じに見えますが、写真をみると10万光年の広さに時間をかけて伸びているのがわかります。実際には100万光年広がっているそうです。これは鉄板のネタで、これを見せるとみんな興味をしめしてくれます。

大きさの調べ方

写真の幅がどれくらいの距離かを調べるのは簡単です。

まず自分の鏡筒、カメラによる視野角を調べます。焦点距離とセンサーサイズから求めることができますが、私はもっと簡単にプラネタリウムソフトを使っています。

スマホアプリのSkySafariですと「観測」メニューの「望遠鏡表示」で視野角を確認できます。

SkySafariによる視野角表示

また撮影プランを作るのに有効なTelescopiusでもTELESCOPE SIMULATORという機能を視野角の確認が可能です。鏡筒とカメラを登録するとその機器の視野角が表示されます。

TelescopiusによるFOV(Field of View) 視野角の表示

視野角が分かれば、もう簡単。次の計算式で写真の一辺の距離を求めることができます。

距離 = (天体までの距離) x (視野角) ÷ 57.3

たとえば冒頭のNGC 300ですと天体までの距離が660万光年、写真の長辺が1.91°なので、長編の距離は次のように計算できます。

660万光年 x 1.91° ÷ 57.3 = 22万光年

半径rの円周は2πrなので、視野角がθとすると、次の計算式になるためです。

距離 = $ 2πr×\frac{θ}{360} = r × \frac{θ}{57.3}$

この57.3は1ラジアンを度にした時の大きさです。ラジアンのことはうっすら知っていましたが、今回ちゃんと勉強しましたw

ちょっとした数字があるだけで、宇宙の広さを少しでも実感することができ、会話がもりあがること間違いありません。ぜひお試しを!

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