先日、処理が完了したM8とM20。まずは2つの画像をご覧ください。
これは最初の公開バージョンと最終バージョンです。いやあ、こうしてみると全然違いますね・・・って、あれれ。画像処理に熱中していたときは「全く違う感」が満載だったのですが、いまあらためてみてみると頭の中でイメージしているほどの違いがないかも。とはいえ、話をすすめます。
わかりやすいように並べてみます。
わずかな違いですが、右の方がコントラストが高くはっきりした画像、一方で左側はのっぺり気味の画像に見えませんか。とくに中央右上の天の川あたり。左の初期版と比べてみると右の最終版は、解像感が増して複雑な表情をみせていると私は悦にいっています。
モザイクで撮影したM8とM20のこの画像、数々の失敗を経て(どんな失敗かは後日に公開します)、左の初期版になんとかたどり着きました。私としてはご満悦。これで完成にしようと思っていたところ、もりのせいかつのkさんから「まだ引き出せるような気がする」とのご意見をいただきました。そこから1週間、あれやこれやとkさんとの議論を経て完成したのが最終版です。その1週間の楽しかったこと!ぶっちゃけ、これはすでにkさんとの共同制作作品といっても過言ではありません。
どんな議論をしたのでしょうか。秘密は「色数」です。
コントラストを高める
処理を終えた天体写真の感想を友人に求めたとき「ちょっと眠いですね」とコメントをもらうことことがあります。天体写真を志すものにとって最も言われたくない言葉の一つ「眠い」。ピンボケのように明らかな原因がある場合を除くと、なぜ眠くなるのか原因がわからず対処に苦しむことも少なくありません。そんなとき「画像にあでやかさが足りないな」と思って彩度をあげてしまいがちです。私もPixInsightのCurves TransformationのSaturationについつい手が伸びます。
しかしそんな方にぜひみていただきたいのが、よっちゃんのこの動画です。目からウロコのこの動画。色をはっきり出したいならば「彩度をあげるのではなくコントラストを高めよ」と喝破しています。「雑巾をしぼることで色が出てくる」とも表現されています。この動画を見て以降、私は色が薄いと感じるとき、まずヒストグラムでミッドトーンを寄せたり、あまりやりすぎないレベルにトーンカーブをS字にしてコントラストを高めて対処しています。
今回の画像も初期版でも明るさのコントラストは十分高めていると思います。これ以上、コントラストを高めると明るい部分が破綻してきそう。最初にあげた二つの画像。実は明度はほぼ同じです。
着目したのが色彩です。
色によるコントラストの強化
初期版にはおおきく二つ課題がありました。
- 背景の天の川が、茶色一色にのっぺりしている。もう少し黄色い成分が欲しい
- M20の青みが足りない。
またいくつかの作例も参考にしました。
彩度を上げたいところですが、それでは上述のように「のっぺり感」は改善しないことが予想できます。トーンカーブをあれやこれや触っていたところ、kさんが良い方法を見つけてくださいました。L*a*b*のb*チャネルを操作する方法です。
b*チャネルは片方の極は青、もう一方は黄色です。よく考えたらこれは黒体放射による星の色の変化そのもの!星は高い温度から低い温度になるにつれて青から黄色、赤に変わっていきます。でも赤いといわれるオリオン座のベテルギウスやさそり座のアンタレスでも、私の目には黄色からオレンジくらいに見えます。つまりたいがいの星は青か白か黄色なんです。そこでb*チャネルをぐっとS字にして、青さと黄色さを強めることにしました。これは青と黄色成分を同時にあげるいわば王手飛車取りのような一手です。囲碁でいえば耳赤の一手(知らないひとはヒカルの碁をご覧ください)。
すると、全体に色数が増して鮮やかになりました(実際にはトーンカーブでRを少し落とすなど他にも微妙な調整をしています)。まず背景の天の川に黄色味が入り、のっぺりした天の川から複雑な表情に変わっています。天の川の微光星をオレンジ色から黄色っぽくするのは悩むところですが、微光星がオレンジの部分(下記の写真の真ん中より少し左下)は存在するので、他の部分を黄色味にすることでコントラストをつけ両方の色を引き立てようという考え方です。
M20の青が引き立ちました・・・いいのか、こんなに自画自賛。気にしつつ続けます。
一番の変化はここで、青い星々がキラキラしています。また背景を少し黄色っぽくしたので青が映えています。
赤色一辺倒だったM8が、ほんのり青く色づいています。
明るさの強弱でコントラストをつけるだけでなく、色の違いによってコントラストを感じられ、全体に解像感が上がったように思います。また色数の増加により、表情が豊かになったように感じます。今回はL*a*b*のb*をひねりましたが、他にも色数を増やす方法は開発すればいろいろありそうです。例えばやってよい場面は限られますが、画像RGB分解してRだけにLHE処理をかけて元に合成するのも色数を増やす手法のひとつ。いずれにしても、のっぺりした画像の解像感をあげるために、明るさのコントラストだけでなく、色の違いを使うというアイデアです。これからは解像のために明るさと色を総動員です。
そう考えるとLRGB撮影でRGBに露出時間をかけることにも意義を感じます。LRGB撮影の時のLとRGBのバランスはいつも悩むこと。時間が限られた遠征、とくに曇りがちな時はLにより時間をかけるのが正解と思います。一方でたっぷり時間の取れるリモートの場合はRGBにも充分な時間をかける意味はありそう。RGBに時間をかけることで微妙な色彩の変化ができ、全体に解像感のある画像に仕上がりそうです。
ちなみにこのb*チャネルをS字にする技。万能というわけではありません。最近撮影したアイリス星雲では「星雲を青くしつつ、分子雲に色をつける」を狙ったものの、カラーバランスがヘンテコになり断念しました。小学生のころ、王手飛車取りを知った私がその機会ばかり伺った結果、大局観を失い負けてしまったことが思い出されます。まだまだ今後の検証が必要そうです。