知らなかった・・BXTとDrizzleと星像と解像度の関係

この1週間、BXTやDrizzleそしてそれらと解像度の関係と格闘していました。いったん私なりの結論が出たので記事にまとめます。私は必要以上に大きな重い画像で処理をしていたようです。いつものことですが、理解が足りない部分が見つかれば今後、訂正していきます!

Resolutionを解像度と記載していますが、ちょっと注意が必要です。いわゆるカメラの解像度は画素の密度であるdpiなどを指します。しかし天体写真において単なるdpiだけではなく、撮影対象がどれくらい細かく分離して写っているか、細かい構造が描写されているかがポイントになります。つまりdpiが高くても天体が細かく描写されていることには必ずしもなりません。ここでの「解像度」は分解能など、より大きな意味を指します。

どんな話か?

今回の話をまとめるとこんなことです。ざっくり二つの話です。

  1. BXTのサポート範囲はFWHM8ピクセルまで
    BXTがサポートする星像のPSF直径、つまり最大のFWHM(半値全幅)は8ピクセルまで。FWHMが8ピクセルより大きい星像では副作用がでることがある。開発者のRussさんはPSF直径が4ピクセル以上はオーバーサンプリングであり、それ以上の細かさは意味がないと考え、上記の仕様となっている
  2. Drizzleによるピクセル数増加はアンダーサンプリングの時に有効
    アンダーサンプリングを解消するためにDrizzleが有効。オーバーサンプリングな画像にはDrizzleによってピクセス数をあげても効果はない(ただし後述のように正しい色の表現には、1倍のDrizzleでも価値はあります)。

では早速はじめましょう。

BXTでアーティファクト?

ことの起こりは、BXTをかけたときに星の周りに小さな星が生成されることでした。

根本的な原因は鏡筒の光軸調整が甘いためでしょう。これはこれで「トトロみたいで可愛い」という声があがってきそうですが、そうとばっかりも言ってられません。この画像はDrizzle倍率を2倍で実行しています。いろいろ実験するとDrizzle倍率が1倍であれば、問題はなくならないものの、かなり緩和されます。しかし私はA0プリントをするので、必要とされるピクセル数を得るためには、2倍のDrizzle必須です。開発者のRussさんに質問をしてみました。

BXTが対象とすFWHMは最大8ピクセルまで

Russさんとは何度かやり取りをして次のような答えをいただきました。

What is the raw FWHM of the stars in your image? From the screen shot it looks quite high. If it is larger than 8 pixels, it is beyond what BurXTerminator can handle. See section 2.2.7, “Sampling,” in the documentation for more information. 

画像にある星のFWHMはどれくらいですか? 添付されたスクリーンショットを見るととても大きいようです。もし8ピクセルより大きいと、それはBXTが扱えるサイズを超えています。ドキュメントの2.2.7 Samplingをみるとより詳細な情報があります。

BXT開発者のRussさんからの回答

ドキュメントはBXT画面の右下のボタンを押すと読むことができます。BXTのドキュメントには次のような記載がありました。

  • Images with PSF FWHM values (star diameters) of 3-4 pixels are generously sampled.
    PSF FWHM (星像の直径)が3-4ピクセルの場合は、ほどよくサンプルされている。
  • Images with 4-6 pixels FWHM are over-sampled, but not enough to justify down-sampling by 2x unless they are quite noisy.
    FWHMが4-6ピクセルの場合はオーバサンプリングであるが、ノイズがそれほどでもなければ1/2でダウンサンプリングすれば良い。
  • Images with greater than 6-8 pixels FWHM are more than 2x oversampled, and can be safely down-sampled by 2x with no significant loss of information. IntegerResample in Average mode should be used to minimize aliasing of noise and maximize SNR in the down-sampled image.
    FWHMが6-8ピクセルの場合は2倍以上のオーバーサンプリング状態であり、重大な情報の欠落なく1/2のダウンサンプリングを安心して実行できる。エイリアシングノイズを最小にし、SN比を高めるにはAverageモードでIntegerResampleを実行するのが良い。
  • Performing 2x drizzle integration of sub-exposures to recover resolution is only meaningful with under-sampled data (FWHM values less than 2-3 pixels).
    解像度を回復する目的での2倍のdrizzle integrationが意味を持つのは、アンダーサンプリングなデータのみである。その時のFWHMは2-3ピクセルより小さい値である
BlurXTerminatorのPixInsightオンラインドキュメントより

なんと!
FWHMの大きさでオーバかアンダーかサンプリングの適正さがわかるというのです。ドキュメントには詳細な論理的解説もありましたが、残念ながら私の理解力を超えています。星沼会でも議論しました。いまのところ私は感覚的に次のように理解しています。

  • 星は本来は点像である
  • しかし、光学系の限界やシンチレーションなどの影響でぼかしたように星像は広がる。これを数式化したものがPSF(Point Spread Function)
  • ぼかした像を観測しているので解像には限界があり、一定以上の細かいサンプリングは不要

私の画像のFWHMを測定してみました。測定にはScriptのImage AnalysisメニューにあるFWHMEccentricityを利用しました。

Median FWHMは9.549ピクセルでした。Russさんの理論のよればオーバーサンプリング状態であり、ダウンサンプリングが可能です。Drizzleの倍率を1倍にしたところMedian FWHMは半分の4.775になりました。

しかし、ここで一つ疑問があります。

暗い星はFWHMが小さいのではないか?

写真には明るい星も暗い星もあります。暗い微光星は小さくFWHMも小さいのではないか?つまりFWHMがばらつくので、FWHMではオーバーサンプリングか、アンダーサンプリングか知ることはできないのではないか。これは、だいこもんが明確に答えてくれました。こちらの記事です(記事にあるグラフを、だいこもんの許可を得て掲載しました)。

ブログ「天文はかせ幕下」のグラフにだいこもんが加筆 https://snct-astro.hatenadiary.jp/entry/2023/11/26/100014

縦軸はFWTM (Full Width at Tenth Maximum)をプロットしています。グラフをみると左の方の比較的暗い星は、FWTMは星の明るさによらず近い値になっています。右の方の星が値が増えているのは飽和しているかだろうとのこと。FWHMでも同じ結果を得られると思います。

私の画像でもDynamix PSFを使って測定してみました。飽和していない星をピックアップしています。

やはり、飽和していない星については、FWHMはほぼ同じ値をとっています。とすると、飽和していない星についてはFWHMはほぼ同じ値であり、FWHMによってサンプリングの適正さを図ることはできそうです。

まだ疑問が残ります。

大きなプリントをするときはどうするのか?

私の画像は写真展用にA0でプリントします。高品質なプリントに必要な350dpiを確保するには16,000 x 12,000ピクセルくらいのサイズが必要です。私のフルサイズカメラであるASI6200MMは、9,576 x 6,388ピクセルですので足りません。そのためDrizzle倍率を2倍にしてピクセル数を増やしたのです。

実際、Drizzle倍率が2倍と1倍を比較すると下記のようになります。

かなり違います。Drizzle倍率が2倍にすることが、A0プリントする私には必要だったのです。またこれってDrizzle倍率が2倍のときはFWHMが8ピクセル以上になっているけれど、ちゃんと解像度は増していると考えられるのでは?」とも思いました。Russさんに食い下がって聞いてみました。返ってきた回答がこちらです。

This is a common confusion – the difference between pixel count and resolution. Resolution refers to the information content in an image. Whenever FWHM is larger than about 3 pixels, no additional resolution can be recovered by drizzled upsampling. It only consumes more disk space and processing time. Regarding printing in large format, upsampling must occur in some way, but no matter what way it is done, no more information (resolution) is being created. I recommend waiting until the very end of your proces

sing flow if upsampling is needed for this purpose.

これは典型的な勘違いです。つまりピクセル数を解像度を混同しています。解像度は画像に含まれる情報量を指します。FWHMが3ピクセルより大きい場合は、drizzleのアップサンプリングでは解像度を回復することはできません。ディスク容量と処理時間が増えるだけです。大きな紙に印刷したい場合は、何らかの方法でアップサンプリングをする必要がありますが、どのような方法で実行しても、新たな情報(解像度)を加えることはできません。アップサンプリングは画像処理の最後まで待つのがおすすめです。

Russさんの返信より

Drizzle倍率を上げるのではなく、ピクセル数を増やすアップサンプリングすれば充分ということです。え、そうなの?? 試してみました。左が2倍のDrizzle、右が1倍のDrizzleをResampleで200%アップサンプリングした画像です。ピクセル等倍表示です。

どちらも同等のようです。4倍に拡大するとこうです。

やはり問題ないように見えます。10倍に拡大してみます。

2倍のDrizzle画像(左)に比べて1倍のDrizzleを2倍にリサンプルした画像(右)はノイズが減っていることがわかります。ノイズくらいの大きさの信号が消えるリスクはありますが、ノイズの大きさは2ピクセルくらいですので、それは信号としては小さすぎており、心配はないと思います。

有効なDrizzle倍率に関しては、蒼月城さんのYouTube番組の[APTips 018]で解説されています。これの19:40あたりから分解能とDrizzle倍率の解説があります。

ここで必要となるDrizzle倍率を算出する式として、Pixel size/0.61λFが提示されています。

私のAGOptical 10″iDKはF6.7、カメラのASI6200MMのピクセルサイズは3.76μmです。λとして550nmを採用すると、Drizzle倍率は1.62となります。実際にはシンチレーションやビデオで語られているようにStar Alignmentによる補完もありDrizzle倍率が1倍というのは適正なのでしょう。

つまりアンダーサンプリングのときはDrizzleによるピクセル数を増やすことは意味がありますが、オーバーサンプリングではそれほど有効ではないということです。ただしピクセル数を増やさない1倍のDrizzleは色の表現には意味がありますので、1倍でも実施した方が良いと思います。

R200SSの場合

星沼会のチリで使っているR200SSでも試してみました。先日のマンドリル星雲です。

FWHMEccentricityで測定すると、Median FWHMは2.595です。Russさんの定義によればアンダーサンプリング気味です。

またカメラのピクセルサイズはピクセルサイズが4.63 μm、F値は3.8なので、蒼月さんのAPTビデオでのDrizzle倍率適正値を計算すると、(4.63×1000) / (0.61x550x3.8) = 3.63倍です。

やはり2倍くらいのDrizzleが良さそうで、整合していますね。

FSQ-106EDの場合

国内でFSQ-106で撮影したデータも調べてみましょう。1月に撮影したクリスマス星団です。

FWHM Eccentricityで測定した、Median FWHMは3.658です。これはオーバーでもアンダーでもない適切なサンプリングといえそうです。計算式で求めるDrizzle倍率適正値は2.24倍。この値ですと、1倍か2倍か悩むくらいです。

表にしてみます。

機器 FWHM測定値Drizzle倍率計算値
AGOptical (チリ)4.775 (オーバー)1.62
FSQ-106 (日本)3.658 (適正)2.24
R200SS (チリ)2.595 (アンダー)3.63

この表を見る限り、FWHMの大きさからサンプリングの適正量を求めるのは良さそうです!

ここまでの検証では、私の環境ではDrizzle倍率が1倍で適正でした。Drizzle倍率を2倍に上げて重い画像にする必要はなかったのです。皆様の環境はまたDrizzleの適正倍率は違いますので、ぜひ検証してみてください。

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