我々の天の川銀河のすぐ近くにある大マゼラン雲(これも銀河です)の近くには、星雲がたくさんあります。以前に撮影したタランチュラ星雲もそのひとつ。今回はさらにその外側にある星雲を撮影しました。
画像処理は半月前に完了していたのですが、作品タイトルに頭を悩ませていううちに時間がすぎました。そのあげくの作品タイトルが「大マゼラン雲周辺の星雲」。んー。もうちょっとなかったか・・・。また思いついたら変更します。
北天では見慣れない青い星雲に青い星々。それと対象的な赤い星雲と赤い星が、中央の上方に位置する散開星団(NGC 2004)を軸に配置されていて、美しく姿を見せてくれます。
この作品は色の表現に苦労しました。
こんなふうに見えるのか?
天体写真を見ていただいて、よく聞かれる質問のひとつに「こんなふうに見えるのですか?」というものがあります。答えは「残念ながら見えません」です。これは天体写真の成り立ちに理由があります。
風景写真など通常の写真では「目で見た映像」がリファレンスとなり、目で見た映像に近づけたり、意図的に派手にしたりなどの処理を加えます。いずれの場合も「自分が目で見た光景」が参考になります。しかし天体写真では多くの場合、自分の目で見ることはできません。
光は物理的に波とも粒ともとらえることができます。粒という考えを元にした場合、光子という粒子が大量にやってきて、人間の網膜でうけとり、視細胞により電気信号に変換されて脳で画像が作られるのが人が見る映像。またカメラのセンサーで電気信号に変換され、画像処理を経て画像になるのがデジタル写真です。人間の見る映像もデジタル写真も、一気にやってくる光子を短時間で受け止めるので、似たような画像をみることができます。(厳密には認識の問題があるので、同じ画像ではありませんが、そこは単純化して説明しています)
一方で天体写真の場合は、光子はポツリポツリとやってきます。数秒以内の短時間で受け取る光子の数はごくわずかであり、撮影するときは数時間から数十時間かけて光子を集めていきます。ポツポツ降ってくる雨が地面に描く絵を想像するとわかりやすいと思います。一粒の雨では地面に絵は描かれませんが、一定の時間を経ると、地面に模様が出てくるのです。
天体写真では、短時間ではやってくる光子が少なくほとんど写っていませんが、数時間、数十時間を露光を重ねることで画像が出現します。人の目は長時間露光できませんので、その画像を見ることができません。「そこに確かに存在しているが、人の目には見えない対象を撮影する」それが天体写真なのです。
今回は色表現に苦労しました。光の周波数として科学的にほぼ正しい色になるように表現しています。しかし、色の濃さや色味など写真として仕上げるときの選択肢は多岐にわたります。人間の目に見えない天体なので、表現の自由度も高まります。技術的には今回の写真は、星雲の細かい部分をコントラスト高く撮影するために通常のRGBのフィルターに加えて、ナローバンドフィルタという帯域が狭いフィルターも使用しています。そのナローバンドフィルターで撮影した画像を、通常のRGB画像に自然にブレンドするのに工夫しました。
とくにこだわったのが左側の青い星雲です。このような青い星雲は北半球から見る空ではあまりなく、南天ならではだと思います。なるだけ透明感を残すような色合いと濃淡にしました。またプリントしたときに明るく眩しい感じにするため、中心部は白っぽくなるまで明るくしています。色は不思議なもので、明るいとパステル調に白っぽくなり、暗いと色が濃くなります。印象派の絵画と宗教画を比較するとイメージがつくと思います。
また星雲の天体写真は、宇宙に最も多い元素である水素由来の光が多く、全体に赤っぽくなります。赤い星雲の処理も、赤一辺倒ではなく、そこに含まれる青い光を引き出して豊かな表現にするよう気をつけました。右側の赤い星雲を見ていただきたいと思います。
友人のだいこもんもたまたま同じ領域を撮影していました。私の写真と見比べると星雲の様子がかなり違います。私よりも彩度が強めです。こんな好みの違いによる表現の違いも、興味がつきないですね。
<撮影データ>
大マゼラン雲周辺の星雲
2024年1月6日 〜 2024年2月18日
AG Optiral 10″ iDK (250mm, F6.7)
Astro-Physics 1100GTO-AE
オフアキシスガイド ASI174MM Mini
ASI6200MM Pro
CHROMA LRGB, SII, Hα, OIII Filters
露出(すべて-10°C冷却, Bin1x1, Gain 100, Offset 50)
L: 300秒x194枚
R: 300秒x65枚
G: 300秒x69枚
B: 300秒x65枚
SII: 600秒x73枚
Hα: 600秒x89枚
OIII: 600秒x79枚
総露光時間 72時間55分
PixInsightにて画像処理
撮影地: チリ・ウルタド渓谷リモート撮影
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