写真展「時空を超えた贈りもの ー宇宙は不思議で美しいー」が、盛況のうちに終了しました。2023年7月28日(金)から8月13日(日)まで、途中5日の休みをはさんで12日間開催しました。夏の猛暑の中を会場にかけつけてくださった方、ネットで応援してくださった方、本当にありがとうございました。感謝の気持ちでいっぱいです。
12日間で300名弱のお客様にご来場いただきました。天体写真を初めて見る方が8割くらい、天文ファンが2割くらいです。嬉しいことに小さなお子さんもたくさんいらっしゃいました。
今回の個展のコンセプトは、会場にも展示をした下記のメッセージに凝縮されています。
時空を超えた贈りもの
宇宙は不思議で美しい。
宇宙からの光は誰にも毎⽇降り注いでいます。
明るい夜の都会でも、周りの光に埋もれて⾒えないだけで、私たちのもとにしっかりと届いているのです。
天体から出た光は、数万年、数千万年、さらに今回の作品で最も遠い天体では17億年かけて宇宙を旅して地球に辿り着きます。そしてその光の粒の多くが、呆気なく地⾯にぶつかりその旅を終えます。
そんな光⼦たちが地表で消えてしまうその前にカメラでとらえることが私の仕事です。普通の写真のように⼀瞬を切り取っても何も写りませんが、時間をかけて撮影し光⼦たちを集めることで、とても⾃然が作り出したとは思えない不思議な光景がそこに浮かんできます。
数⼗万から数億光年にわたり広がっているのにまるで体の中のミクロな構造に⾒える天体。裏庭の⾵景のような星雲。カラフルな光をまとった銀河。
そこには⾝近な普遍性を感じることができます。
私は宇宙を⻑い時間かけて旅してきた⼀粒⼀粒の光をとらえ⼤切に表現したい。そんな想いで作品を作っています。
広⼤な宇宙を旅してきた光の粒⼦による美しく不思議な贈りものをぜひ受け取っていただきたく思います。
今夜は空を⾒上げてみてください。⾁眼では⾒えない無数の星の光がみなさんを包んでいます。
丹羽雅彦
宇宙の不思議さ美しさをみなさんにお伝えしたいと思い、写真展を開催しました。天体写真を見たことのない方には「宇宙にはこんなに美しいところがあるんですよ」とお伝えいしたいですし、天文ファンの方には「天体写真の新たな可能性」について感じてもらいたく思いました。
今回、天体写真のもつ可能性を広げるために、3つの試みをしました。
- 来場者一人ひとりに、細かいレベルで解説する
- 大判のプリントをする
- ファッションの街のアートギャラリーで開催する
この3つの試みについて、説明したいと思います。
1. 来場者一人ひとりに、細かいレベルで解説する
天体写真は知識なく見ても「綺麗〜」となります。しかし背景の知識をもって写真を鑑賞すると、楽しさは増大します。今回は、一人あたり20分くらいの時間をかけて説明しました。実際には、4-5名のお客様に対して一緒に説明した時間が多かった気がします。
解説がどれくらいの細かさかというと、例えば「ほ座超新星残骸」では次の解説をしました。
- 12,000年まえに大爆発を起こした星の跡である。
- 星は普段は重力で小さくなる力と核融合で大きくなる力がバランスして形を保つが、核融合する元素がなくなると重力の力が増して爆縮を起こし、その後に大爆発する。
- この写真は縦に80光年、横に50光年くらいの大きい天体だが、まるで体の中を顕微鏡でみたような、マクロとミクロの不思議な相似性がある。
- 我々の体を構成している炭素や血の中の鉄などは、宇宙にはもともと存在せず、星の中で合成され大爆発で宇宙に散ったこと。つまり我々はもともと星の中で作られた。
- このことをカール・セーガン博士は「我々は星くずでできている」と表現された。
「星くずでできている」というセリフを言いたくて、ずっと写真の前で話しているわけです。
これが終わると「M83南の回転花火銀河」に移ります。ここでもつぎのような話をしました。
- これは銀河という天体で、数千億個の星が集まってできている。
- このような渦巻銀河は、正面からみると円形で、横から見ると平べったい。
- 我々の太陽系が属する天の川も銀河で、夏の天の川は銀河の内側から中心方向をみているため平べったい銀河の端の方が川のように見える。冬の天の川は外側を見るので淡い光の川である。
- 南の回転花火銀河は1,500万年前の光をとらえたもの。1,500万年前というと、人類は誕生していないが、恐竜はとっくに絶滅している。
- 実は銀河はたくさんあって、銀河が数百個集まって銀河団となり、それが数十個集まって朝銀河団となる。天の川は「おとめ座超銀河団」という宝塚歌劇団のような名前の超銀河団に属している。
- 実はこの写真にはたくさんの銀河が写っている。写真を見ながら「この銀河は6億年前」「この銀河は17億年前の光。地球や太陽ができたのが約45億年前なのでそれくらいのスケール感の光を見ている」という解説。
「17億年前」というセリフ言いたくて、ずっと話しています。無数に写り込んでる遠方銀河は、多くの人が感動してくれました。「ここに渦巻がある!」「ここにも!」と歓声をあげながら銀河を探せをみなさんに楽しんでいただきました。
このあと、ケンタウルスAや、魔女の横顔星雲、蝶々のようなNGC 2170、らせん星雲などの話をします。オメガ星団の写真では、黒体放射をざっくり説明して「どうして緑の星がないのか」も解説しました。
全部で20-30分くらいかかってしまいますが、みなさんとも「おおー」「えー」と感心しながら聞いてくださいます。かなり長い話ですが、質問も交えながら聞いてくださる方がほとんどでした。説明のあとは思い思いに写真を見て、1時間から1.5時間くらい過ごされていた方が多かったように思います。
2. 大判のプリントをする
プリントは多くの天体ファンの方に評価いただきました。
プリントにはかなりこだわりました。今回、会場でしか見られないような写真にするために、なるだけ大きくプリントをしました。一番大きいもので縦1.5m×横1m。A0やA1のプリントも多く用意しました。
ディスプレイで見る画像とプリントした写真はまったく別物です。とくにカラーバランスとコントラストに違いがでます。美術館や写真展を多く手がけるプリンティングディレクターの方と何度も調整を重ねました。最初に試しプリントをしたのが昨年の12月で、最終的に完成したのが7月ですので半年以上かかったことになります。プリンティングディレクターの方は、風景写真など自然光での写真には経験豊かでしたが、天体写真は初めてです。星の表現や淡い星雲、遠方の銀河の表現などをお伝えして二人三脚ですすめました。
やってみて分かったことは「ディスプレイで綺麗に映る画像をそのままプリントしても綺麗にはならない」ということです。プリント用にカラーバランスやコントラスト調整にトーンカーブをかなり修正しました。また、大判であるためノイズ処理もいつもより強めにしています。長時間露光の作品が中心になったのもそのためです。
私はこれまで「ディスプレイのクオリティを100とすると、プリントは80くらいのクオリティで良し」としていました。今回は、コントラストや色の出方、黒の締まりなどモノとしての質感を持つことができ「プリントがディスプレイの画像のクオリティを超えることができた」ように思います。しっかりプリントすると、ディスプレイの画像の方は物足りないように感じてきました。
3. ファッションの街のアートギャラリーで開催する
会場のあるのは表参道・南青山です。普段から全身をモンベルに身を包む天文民と異なり、街行く人もオシャレな方ばかり(とはいえモンベルは、作り手のアウトドアへの強いこだわりが感じられて好きです)。周辺にはハイブランドのお店が立ち並びます。そんなファッションの街のアートギャラリーで写真展を開催しました。
会場のDA VINCI PROJECTには現代アートの作品がたくさん展示してあります。そんなアート作品の中に自分の天体写真を配置することで、どう見えるのか。来場くださった方にどう感じていただけるか、それがとても楽しみでした。
来場者の方にこの点について感想を聞いてみると「会場の雰囲気とあいまって、天体写真の美しさが引き立っていた。」「アート作品として十分成立している印象を得た」というありがたいコメントをいただきました。
私としても、宇宙の不思議さ美しさをストーリーとともに伝えることで、天体写真のアートの可能性を感じさせる展示になったように思います。一方で課題も見えてきました。アート作品は意図を伝えるためにいろいろな仕掛けや工夫をしています。私の天体写真は意図があるものの、まだ素材がむき出しのところがあります。写真展の期間中に表現上の工夫や、新たなアイデアもいくつか浮かびましたので、次回にチャレンジしてみたいと思います。
写真を買っていただくということ
今回の写真展はアート作品であることを標榜しましたので、写真の販売もしました。会場では販売の表示をしませんでしたが、購入を希望される方とはお話をして、写真をご購入いただきました。ネットでの販売もしています。
予想を上回る枚数の写真を買っていただきました。購入理由を伺うと「宇宙の説明を聞いているうちに欲しくなった」という意見が大半です。ここでもやはり写真単体ではなく、ストーリーとセットにすることが大切でした。
初日に最初にお買いいただいた方は「この写真はリビングに設置して、こちらの写真は玄関に」など、設置方法を熟考されていました。自分が心をこめて時間もかけて制作した天体写真がこの方のご自宅に置かれるのか、と思うと泣きそうになりました。
アート作品の販売にはプライマリーマーケットとセカンダリーマーケットがあります。プライマリーマーケットとは、今回のように作家の新作をギャラリーなどで販売することを指します。セカンダリーマーケットとは、オークションや個人間などで売買されることで「100億円の値がついた」というようなニュースになるのもセカンダリーマーケットです。
購入いただいた写真の価値が、セカンダリーマーケットで向上することはとても大切です。しかし写真作品の場合は何枚でもプリントができるのでセカンダリーマーケットでの価値を保つことが難しくなります。そこでエディションを設定します。エディションとは発売時に「この写真は〇枚しかプリントしません」と宣言することです。もともとは版画の概念です。今回は、A1以上の大判は3エディション、A3は10エディションを設定しました。「将来においても、それ以上はプリントしません」という宣言です。なんとなく寂しい気がしていましたが、ギャラリーの方からは「どんどん新作を出してください」と笑われました。
私は新人ですので、市場での価値が決まっているわけではなく、まだプライマリーマーケットしかありません。そんな中、ご自身の価値観で判断し購入いただいた方には感謝するとともに「いつかセカンダリーで価値があがるようにしたい」と、夢を抱いています。
興味深いことに、お買い求めいただいた写真は見事にバラバラでした。銀河にロマンを感じる方もいらっしゃれば、星雲に繊細な美を求める方もいらっしゃいます。同じ星雲でも「夜に舞う2頭の蝶々」のようにメルヘンチックな写真を望まれる方と、「魔女の横顔」のようにおどろおどろしい美しさを求める方もいらっしゃいました。人気があったのは「M83 南の回転花火銀河」で、私の話を聞いて「銀河探しを楽しみたい」とのことでした。
グッズ販売
グッズの販売もしました。用意したのはサイドを丁寧に研磨したA5サイズのアクリルキューブです。
今回は4種類用意しました。コンセプトは「あなたのデスクトップに宇宙を」です。写真展で感じた宇宙を、机の上に置いて楽しんでいただきたいと思い制作しました。ありがたいことに準備した初回ロットはすぐに売り切れ、追加で制作しました。
今回、Tシャツも用意しようと思いましたが、クオリティが担保できなかったので断念しました。しかし良いプリント方法を見つけましたので、次回は挑戦してみようと思います。
写真展を終えて
まずは無事に終了したことをホッとしています。多くの会場に足を運んでくださった方には、心から感謝しています。真夏の暑い中を開催しましたし、遠方から電車を乗り継いできたくださった方もいらっしゃいます。本当にありがとうございました。また素晴らしい環境を提供くださったギャラリーDA VINCI PROJECTの皆様にも心から感謝します。
今回、開催して感じたことは「やっぱりみんな宇宙が好きなんだな」ということに尽きます。私の長いトークも熱心に耳を傾けていただきましたし、その後も食い入るように多くの方が見てくださいました。
「宇宙の美しさに驚いた」「宇宙を考えると、自分の悩みがちっぽけに思えた」「宇宙のことは考えたこともなかったが、とても興味をもった」「家に帰ってから子供が図鑑で宇宙を調べている」そんなコメントもいただきました。それは天体写真をやっている私にとって、この上ない喜びです。
実施して宿題も見えてきました。バージョンアップして次回も開催したいと思います。ご期待ください!
ドキュメンタリー動画と天リフ編集長との対談
星沼会のぐらすのすちさんが、ドキュメンタリー動画を制作してくれました。天リフの山口編集長との対談も収録されています。
掲載いただいたブログ
写真展を多くのブログに記事にしていただきました。時系列でリンクを貼っておきます。記事を執筆いただいたみなさま、ありがとうございました。私が気が付かなかったブログもあると思います。気がついた方はご連絡ください。